チームラボ 堺大輔氏 × 生活総研 酒井崇匡
デジタル革命時代の生活者と体験のキザシ チームラボ 取締役 堺大輔さんのインタビュー記事
デジタルアートの先駆者としてさまざまな新しい体験を生活者に提供されているチームラボの堺大輔さんをゲストに迎え、デジタル時代の生活者と体験のキザシについて酒井崇匡研究員と語りました。
SNSがコト消費に与えた変化と、チームラボがつくる「体験」。
酒井:博報堂生活総合研究所では、2016年から毎年1月に、「みらい博」という研究発表イベントを行っています。毎年テーマを変えながら未来の暮らしを提言しており、今年のテーマは「お金」なのですが、昨年は「好き」という人の感情が生み出す未来の暮らしを提言しました(→特設サイト)。人が好きになり熱中する対象は、経済の発展と成熟によってモノからコトに変わっていったとよく言われますが、生活の情報化が更に進んだ今、実はSNSやスマホが殺してしまったコト消費って多いんじゃないかと思うんです。
堺:どういうことですか?
酒井:特に2010年代に入って以降はスマホの普及もあって、人々の体験に関する情報がSNSに氾濫していますよね。色々な人のコト消費を疑似体験できるようになったことで、従来のコト消費には既視感が強まり、人々の「それ、やってみたい!」という気持ちが生まれにくくなっているのではないかと。
堺:なるほど。
酒井:それに対して、チームラボのアウトプットはSNS以後の新しいコト消費の形と言えるんじゃないかと感じています。これは、皆さんが大切にされているインタラクティブ性にも関係していそうですが、そのあたり、いかがでしょう。
堺:まさに関係していると思います。僕らは「体験」と言っていますけれど、僕らのアウトプットは作品に人が入ることで、自分が周りに変化をもたらしたり、他の人によって影響を受けたりするため、その場じゃないと体験できないものだと思っています。僕らの作品は、人の存在が空間に作用するようなものが多いので、ひとりで体験しているときと、例えば100人で体験しているときとでは、また違ってくる。
酒井:その場に自分や他の参加者がいることに意義があるということですね。
堺:人がそこにいるからこそ、映像が影響を受けて変わっていったりするんです。自分や他者、映像といった様々な存在がインタラクティブに作用しあい、それぞれがアクティブになることによって体験全体が変化する。美術館で、絵画の前で立ち止まって鑑賞しているのとは明らかに違います。
2017年12/1~2018年1/28開催された「福岡城 チームラボ 城跡の光の祭」の様子。
左:大天守台跡の石垣に住まう花と共に生きる動物達/右:呼応する、たちつづけるものたちと木々
2017年12/22から展示している「Digital Light Canvas」。シンガポールのザ・ショップス アット マリーナベイ・サンズにて、人々の存在をデジタルアートで拡張する、インタラクティブな光の巨大なインスタレーション空間を制作。
人と光のインタラクションで生まれるもの。
堺:僕らは、「ミュージックフェスティバル チームラボジャングル」というイベントを継続してやっています。これは音楽フェスティバルのようなものなんですけども、DJやアーティストのライブパフォーマンスもないし、従来のようなステージもないんですね。前方・後方もなく、会場は、四方をネットワークによって何百台もつなげたムービングライトによる空間作品と表現によって、他の来場者と一緒に、音楽と一体化する体験を提供しているんです。
このイベントでやりたかったことは二つあって、一つは、従来のようなステージ上からの一方的なアーティストによる表現を楽しむのではなく、来ている人たち自身が音に影響しあえるということ。具体的に言うと、例えば、上から降ってくる光のラインに触ると音が出る「Light Chords」。要は、ベースの音楽は変わりませんが、空間そのものが弦楽器そのものになったように、みんなが動くことで旋律を変えることができるということ。みんなが踊ることによって全体の音が変化するんです。もう一つは、演出もみんなの動きによって変わるということ。チームラボボール(※周囲の人々の行為によって色や光や音を変えることができる、大きな光るボール状のインタラクティブインターフェイス)を、空間全体から光のラインが追っかけるんですよ。お客さんがボールをはじいたりして、空間をとびまわると、それを四方から発している光のラインが追従する。つまり、お客さん自身が、音と演出を創出できるうえに、何度参加してもそのたびに違う体験になるという。
それから、僕らは光を、まるで物質のように扱って、光のラインによって構造物を形成するんですね(作品名「Light Vortex」)。物質の構造物、例えば壁は触っても絶対動かせないじゃないですか。でも光の構造物だと動かせるわけですよ。めちゃめちゃ動くし、しかもその構造物のなかに入れるという光のアートもやっています。
2017年6月28日~9月10日に開催された「バイトル presents チームラボジャングルと学ぶ!未来の遊園地」。インタラクティブな光のアートに包まれる超幻想空間を実現。
左:teamLabBall – Sound Spheres/右:Light Vortex
酒井:それは、参加するときっと気持ちいいと思うのですが、なぜ気持ちいいんでしょう。確かに全体に影響を与えてはいるんだけれども、全体に影響を及ぼしたいと思ってその場にいる人はあまりいないんじゃないかと思うんです。単純に気持ちいい。しかもひとりでやっているより、みんながいるから楽しいみたいな感じでしょうか。
堺:そう。みんなが一緒にいる、だからこそなんだ、というほうが体験としてもいいと僕らは思っています。
酒井:たしかに。チームラボボールをみんなで動かし合うみたいなことは、そこに連帯感が生まれる感じもします。音だって、自分ひとりより、他の人が介在することで、想定外の合奏が成立する感じですよね。全員によるセッション。
堺:そうそう。自分だけではつくることができないものじゃないですか。概念的にはそういうことができたらいいなっていうのが、僕らのやりたいことの一つです。そこに他者がいたほうがより大きくインタラクションが起こってくるので、関係性が複雑になるということですね。
酒井:私達はモノ消費、コト消費の次に来るものとして、「トキ消費」というものを提唱しているのですが、お話とかなり共通する点があります。例えばハロウィンに仮装した人々が渋谷のスクランブル交差点周辺に自然と集まり、見知らぬ人とハイタッチを交わす行動は、今そこにしか生まれない“トキ”を楽しむという意味で、同じ体験が何度でもできる従来のコト消費とは一線を画していますよね。
そういう、その時その場でしか味わえない非再現性の高い盛り上がりを、そこに集まった同じ志向を持つ人々と一緒に作っていく、という消費スタイルをトキ消費と呼んでいます。チームラボのアウトプットも、その場にいる人々と映像や光が作用しあい、自然に貢献しあって全体の盛り上がりを作っているところは、とてもトキ消費的です。
新しい体験をつくるプラットフォームとなり得るデジタルの拡張性。
酒井:まさに発表されたばかりですが、新しく常設展示を行われるのですね。そこでの取り組みはどんなものがあり、どんな狙いがあるのでしょうか。
堺:まず、概要ですが、お台場に「MORI Building DIGITAL ART MUSEUM: teamLab Borderless」というデジタルアートミュージアムができます。施設面積10,000平方メートルという大きなもので、僕らの中では過去最大の規模になります。
内容は大きく二つに分かれていて、一つは色んなものが混ざり合う「ボーダレス」という概念、そして、もう一つは身体を使って体験すること、「身体性」がコンセプトになります。
先日発表された「MORI Building DIGITAL ART MUSEUM: teamLab Borderless」のキービジュアル
酒井さんたちが考えておられるトキ消費について、その場じゃなきゃ体験できないという概念で言えば、僕らも同じことを思っていたりする部分があるかもしれないですね。僕らのアウトプットは再現性を持っているんだけれど、その中に人が参加することによって非再現性が高まっている。要は、そこにいる人によって変わるということですね。
酒井:僕たちがトキ消費で言っていることは、すごくムーブメントに因っているところがあるんですね。体験をつくり上げる動き自体にみんながどんどん参加していくっていう発想なんです。でも、いまチームラボがおやりになっていることって、それとは少しアプローチが違っていて、その場に居合わせた人たちの力をデジタルの力で増幅している感じもしますね。
堺:なるほど。そうかもしれないですね。僕らは「そこで何かやってください」というメッセージを現場で出すことはほとんどありません。「そこにいてください」「そこに入ってください」、それだけですから。だからこそ、できることが増えるかもしれないですね。
酒井:いまおやりになっているのは、一般の参加者の方に映像や光などのコンテンツとインタラクションしてもらうという形ですけど、例えば同じ表現の中で10人ぐらいのダンサーだけがパフォーマンスを行ったときに、また違ったすごいクリエイティブムーブメントが生まれたりとか、そういうことが起こりうるわけですか。
堺:起こると信じています。だから、僕らのつくっているのは、ツールまたはプラットフォーム、または「場」みたいなものかもしれません。
酒井:そうですね。プラットフォームですよね。そのプラットフォームによって、何と言うか体験が拡張性を持つみたいなことかもしれませんね。
映像の進化の先にある、未来の体験のカギ「身体的必然性」。
酒井:身体性にこだわるのはどうしてでしょうか。
堺:体験の強度を上げるということです。目で見るだけなら、4K、8Kの高精細映像でもいいし、VRでもいいわけですよね。それらの分野も進化し続けていますから。じゃあ、もう家で見ればいいじゃないと思うことに対して、そこでなければできないこと、体を使ってそこでやってみないとできないことを強化しようということなんです。
酒井:つまり、体を動かすという強い体験がひも付かないと、そこに行く意味がなくなってしまうとも言えますね。
堺:ベタな話ですけれど、温泉のあるところに行かなければ体を温泉に入れることはできないし、雪のあるところに行かなければ雪を滑る体感のあるスノーボードはできない。疑似体験ではない、それが体験じゃないですか。
酒井:ある意味でデジタルが奪ってきたとも言える体験を、デジタルでプラットフォームをつくることで創出しようとしている感じがしておもしろいですね。
堺:もっと体を動かしたり、その場に行かなければできないことを、デジタルによって拡張するということですよね。僕らはプロジェクションなどを使っていますけれど、技術的な手法は何でもよくて、陽の光の下で体験できるならできることも広がるので、そういう部分で技術が発展すればいいなと思いますけれど。
酒井:デジタルによるインタラクションによって、現実の場とはまた違った、その場でなければできないことが生まれるということですね。これから先、体を動かさなくてもいいものはVRや映像に集約されていくから、外に出ていくのは体動かすことしか理由がなくなっていく。何かしらの身体性必然性を突き詰めたアクティビティが、これからすごく発展しそうな感じがします。
堺:まさにそう思いますね。
独創的な表現を生み出す、動的なヒエラルキーで形成されるチームラボの働き方。
酒井:ところで、チームラボのこういう独創的な仕事って、どのような組織や働き方から生み出されているのか、その辺のお話もうかがいたいと思ったのですが。
堺:僕らの組織はフラットだと書かれていることが多いんですが、普通の会社では、いわゆる肩書があって、縦軸の階級みたいなものがいくつもある感じですよね。うちには、確かにそういうものはありません。でも、肩書や階級はないものの、ある作品に対して影響力や決定力が同等で、多数決にしましょうみたいなことは全くないんですね。暗黙の了解なり、認識として、クオリティの高いものをつくるということが風土として全員の中にあって、例えばこの専門分野についてはこの人が一番知っているとなったら、その人を中心に、自然にヒエラルキーができるんです。最近僕らがよく言うのは超多次元的だということで、そのヒエラルキーは、作品やプロジェクトの進捗段階によって目まぐるしく動的に変わります。クオリティの高いものをつくるということにおいては、わかっている人がやったほうが絶対にいいじゃないですか。それは、僕だろうが代表の猪子寿之であろうが、全く関係ないですね。だから、表面的にはフラットっぽく見えますが、あまりフラットではない。
酒井:僕が研究の対象にしているのは、テクノロジーが人の価値観をどう変えていくかということなのですが、SNSが2004年くらいで立ち上がったとき、僕たちがイメージしていたSNSの世界って、もっとフラットだったと思うんです。広場みたいなところで、誰でも分け隔てなく、発言していくというような。でも、それから10年以上経ってみて、そこに築かれた世界は、むしろピラミッド構造なんじゃないかと思うところもあって、発言力の強さが本当に可視化されてきたなと思うのですが。
堺:そうですね。それに近いと思いますよ。うちの場合は、特にクオリティを上げることに全てにおいて重きを置いていて、そのためにはそうしたほうがいいよねということです。でも、ソフトウェアの世界では昔から行われている当たり前のことで、オープンソースのコミュニティのコミッターでもハイレベルのコミッター、つまり、超できる人っていうのは、そのコアなところにどんどんどんどんコミットしていく。そして、ソースを公開してみんなが使えるようにする人が超すごいみたいなことが常識ですよね。
酒井:はい。開発者がオープンにすることで、みんなが新しい展開や応用をつくっていくみたいなことですね。そのとき、だれが何に長けているというのは、何かシステム的に可視化されているものなんですか?
堺:実は、いま試していることがあって。人物にタグ付けして検索できるようにしようとしています。テスト段階なんですけれどね。一般的な知識からエンジニアとしてのスキルだけではなく、趣味、嗜好、特技など、ものすごく多岐にわたるジャンルで人物にたくさんタグを付けるっていう。タグは自分でも付けることができるし、他人もタグ付けできる。変なワードもいっぱいありますよ、いまのところ(笑)。それのweb版をサイネージに入れておくと、例えばオフィスのたまり場などで表示されて、休憩中にちょっと話題になったりとか、そういうものになればいいと思って、いずれ公開できるようなものになるように開発中です。
酒井:それはおもしろいですね。大きな組織であるほど、専門性は閉ざされた情報なので、システムとして公開されたら使いたい企業は多いと思います。
今回は示唆に富んでいるお話を色々とうかがうことができました。
どうもありがとうございました。デジタルアートミュージアム「MORI Building DIGITAL ART MUSEUM: teamLab Borderless」のオープンを楽しみにしています。