第3回
「友達」と「金髪」と「ソーシャルメディア」
前回、吉岡虎太郎さんが広告界きってのロマンチストコピーライターとして「愛」と「カネ」という人生の普遍的な対立軸でコラムを書いていますので、自分はインタラクティブプラナーとして、ソーシャルコミュニケーションを13年間見つめてきた視点から「生活定点」特設サイトの魅力をお伝えしたいと思います。
「生活定点」調査が始まったのは1992年。インターネットが日本に本格上陸したのは94年から95年にかけての時期と言われていますから、「生活定点」はインターネット以前と以後の生活者意識を比較できる貴重なデータです。
95年以降、インターネット上には生活者がつくりだしたさまざまなコンテンツが溢れ、「情報爆発(info-explosion)」と呼ばれる状況になりました。2000年には6.2エクサバイト(EB)だった情報量が2003年には32エクサバイト(EB)、そして2011年には1.8ゼタバイト(ZB)となり、東京オリンピックのある2020年には35ゼタバイト(ZB)になると言われています。エクサバイト(EB)は1018、ゼタバイト(ZB)は1021なので、1ゼタバイト(ZB)=1000エクサバイト(EB)。つまり、2020年には2003年の1000倍以上の情報量がネット上に溢れかえるというイメージです。
2011年のネット上の情報量が1.8ゼタバイト(ZB)と書きましたが、データを砂粒として考えると、1ゼタバイト(ZB)は、地球上のすべての砂浜にある砂の合計に相当します。ネット上で、あるひとつの情報を見つけてもらうことは、地球上のすべての砂浜から、1粒の砂を手に取ってもらうくらいの確率。これが2011年に起きていたことです。2020年の35ゼタバイト(ZB)というのは35×1021です。宇宙にある銀河の数が1011、星の数が1022と言われているので、情報量は、ほぼ全宇宙の星の数に近いということになり、情報との出会いが、砂粒よりももっと奇跡的になる「スターチャイルド」時代を迎えるのかもしれません。
さて「生活定点」には時系列データを「グラフの形から見る」という便利な機能があります。いったん上昇したけれど、ここ数年は下降傾向という「山型」のグラフの項目一覧を見ると、「1年以内に茶髪にした」という項目がありました。2004年をピークに下降しています。
https://seikatsusoken.jp/teiten2014/answer/262.html
2004年は、人間の脳の処理力を、爆発を起こしたネットの情報量が越えてしまい「スルー力(りょく)」と呼ばれる新しい能力が身についた年であると言われています。検索エンジン、特に「ググる」という言葉が生まれてきたのもちょうどこの頃ですが、メディアの歴史で外せないソーシャルネットワークサービス(SNS)が次々と生まれた頃でもあります。
https://seikatsusoken.jp/teiten2014/answer/1280.html
SNSはリアルな世界ではないネット上の「友達」と「いいね!」でつながれる世界をつくりました。それまで、同じ趣味の友達と出会うには、アキバ(秋葉原)ならオタファッション、シブヤ(渋谷)ならシブカジ、ウラハラ(裏原宿)なら裏原系、といったように、そのエリア特有の服装に身を包み、仲間が集まりそうなところに出かけるなどの必要がありました。それが、SNSの登場によって、一気に、ソーシャルグラフというネットの向こう側で友達を探すことができるようになったのです。そしてこの頃から、「オシャレなオタク」のような新しいトライブがどんどん生まれ、そして、「金髪」「茶髪」が急激に減っていくことになります。とくに女性誌の読モ(読者モデル)と呼ばれる人たちの髪の色はどんどん黒くなっていっているような気がします。
つまり、外見でシグナリングをしなくても友達をつくれるようになったと言えるのではないでしょうか。その流れは「友人は多ければ多いほどよいと思う」と答えている人が急激に下がり、つねに過去最低を記録し続けていることにも現れていると言えます。
https://seikatsusoken.jp/teiten2014/answer/939.html
「自分は誰とでも友達になれる方だ」と答えている人がつねに一定であることを考えると、友達をつくる力そのものが減っているというわけではなく、「心から友達と呼べる人はそれほど多くなくてよいのである」という、昔からよく言われる人生論に落ち着きそうです。
https://seikatsusoken.jp/teiten2014/answer/934.html
最近、若い女性の間で「無性(ノンセクシャル)」なファッションが流行し始めています。無色透明というか、あえて、自分のセクシャリティという記号を強調しない服を選ぶことで、内面を見てほしいという時代が来ているのかもしれません。広告は「いいね!」というエンゲージメントを無視できない時代。もしかしたら色が付いていない、そのままの商品の姿を世の中にさらけ出すことが求められているのかもしれません。
これはでも、吉岡虎太郎さんに「コピーは嘘をついてはいけない」と新入社員の頃に教わったこと、そのままですね。
※このコラムは生活定点2014年度版のデータに基いています。