みらいのめ

さまざまな視点で研究員が「みらい」について発信します

2022.02.09

第40回

地方都市の意外な便利さから感じたみらいのめ

from 愛知県

生活総研 客員研究員
博報堂 中部支社

花室 智有

実家のすぐそば、歩いて10分ほどの距離に「キャンプ場」ができていることを知り、驚きました。
バーベキューを楽しめる「バーベキュー場」ではなく、テントを張って夜を過ごせる、ちゃんとした「キャンプ場」です。

左手奥の山の麓のスペースがテントを貼るスペース。(残念ながら撮影日は既に今期営業終了とのことでした……)

キャンプ場といえば、携帯電話も通じない、お風呂もない、極端なことを言えば、「不便」のなかで自然を満喫するところ、という印象がありませんか?
自然あふれる「田舎」にあるもの、それがキャンプ場だという先入観が多くの人にはあるのではないか、と思うのです。

実家のある街は、東京や大阪・名古屋などの大都市と比べれば確かに、都会とは言えませんが、県庁所在地であり、コンビニも徒歩圏内、もちろん携帯電話も通じます。一応、自分のなかでは「都会とは言えないけれど田舎ではない街」の、しかも「自分が育った家のすぐそば」にまさかキャンプ場が作られるとは思ってもいませんでした。これが驚きの背景でした。
「だれが行くんだろう?」と率直に思ったのですが、話を聞くと、夏秋のシーズンには結構テントが張られ、それなりに人気だったようです。

普通に考えれば、キャンプ人気に乗じて、キャンプ場が“都市化”しているということなのでしょう。
ちょっと調べてみたら、「アーバンキャンプ」というものが流行しつつある模様です。
(確かに、大都市東京の高層ビルの屋上でやるキャンプ、やってみたいです。)

キャンプ専門情報サイトCAMP HACKの編集者・ライター(&YouTuber)である田口航さんにお話を聞いてみました。
一口にキャンプと言っても、時代の流れを受けて変化しつつあるようです。
大まかに言えば、「わざわざ行って楽しむ本気のキャンプ」が主流のなか、「サクッと行って楽しむ手軽なキャンプ」にも注目が集まりつつあるそうです。
コロナ禍で流行したキャンプですが、やってみると「案外大変」な側面もあり、高価な道具を揃え楽しむ本格キャンプの人気が集まる一方で、手軽・便利なキャンプ需要も大きくなっている模様です。
キャンプ専門家である田口さんも休みの日にプライベートでキャンプ場に行く回数自体が減り、行ってもテント設営が面倒で最近はもっぱら車中泊ばかり、とのこと。キャンプ芸人の走りのタレントさんの「もうキャンプは楽しくない。家で寝たい。」というコメントにも同様のインサイトが潜んでいそうです。
冒頭のキャンプ場はきっとそこに目をつけられたのでしょう。住宅地の目と鼻の先に「便利なキャンプ場」が建てられたのだと思います。
キャンプ場に留まらず、地方都市における目に見える「便利化」、実は結構進んでいる気がします。

地方勤務(単身赴任のため、2つの生活拠点のある『パラレル生活者』です。)となって以降、必然的に地方都市を訪れる機会が多くなったのですが、ここ3~4年の県庁所在都市のような中堅地方都市の変化には目をみはるところがあります。
主要駅前の新規マンション群、クルマで15分も行けば到着できる巨大ショッピングモール、そして、一日無料で遊べる大規模な公園や、冒頭のキャンプ場のような、アクセス便利なアウトドア施設。
東京と地方を実際にパラレルで生活してみると、案外、地方都市も元気な気がします。“集まる”“働く”“稼ぐ”オフィス環境の変化は東京を中心とした大都市が先行していると思いますが、“住まう”“育てる”“暮らす”観点の街の変化(再開発)で言えば、ひょっとすると、東京・都心部より、地方郊外のほうが案外活発と言えるかもしれません。

マクロデータ上でも、コロナ禍による東京からの人口流出が明らかになったというニュースがさかんに報道されましたが、私の育った地方都市でも、少なくとも私自身が過ごした20年前には感じられなかった、便利さ、元気さが垣間見えました。

少子高齢化、人口減少が続く日本。
都会への一極集中が続くと思われていたなか、コロナ禍をきっかけに、浮き彫りになった地方都市の“便利化”。
そうしたこれからの社会の“みらいのめ”を、地方都市の小さなキャンプ場の話を聞いた際の驚きを通して、ふと感じました。

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