みらいのめ

さまざまな視点で研究員が「みらい」について発信します

2023.10.25

第50回

金沢の用水の今昔から考える街の
インフラのみらい

from 石川県

生活総研 客員研究員
北陸博報堂

德田 周太

コロナ禍にリモートワークが普及したことを機に生活拠点を移そうと思い立ち、2年ほど前に十数年ぶりに東京から金沢へのUターン移住をしました。
私が大学に編入するタイミングで県外に出た当時は北陸新幹線が開通する前だったこともあり、戻ってきてみて現在の観光客の多さにギャップを感じる一方で、中高生の頃から慣れ親しんでいた金沢の景観はそれほど大きく変わっていないように思います。

その要因としてコンパクトな街並み、昔からの老舗、町家の保全状況など色々と思いつきますが、昔は遊びや通学、今は散歩や通勤で近くを歩いている”金沢の用水”に着目し、街のインフラのみらいを考えていきます。

自宅からオフィスに向かう際に歩く用水沿いの道

そもそも金沢の用水とは

昔から用水が身近にありすぎて詳しく調べたことがなかったのですが、金沢の用水は市の中心部を流れる犀川・浅野川を源流として平野部に網の目のようにはりめぐらされ、その数は約55本、総延長は約150キロメートルにも及ぶそうです。

現在の役割としては、田畑をうるおす農業用、庭園の曲水、水浴びや排雪のための生活用、火事など緊急時の防火用など多岐にわたり、さらに過去には友禅流しや水車を回す工業用まで活用の幅が広がっていたようです。正直ここまで色々なシーンで用いられていたとは知りませんでした…。

金沢の用水網マップ (金沢市の歴史都市推進課のページから引用)

かつては個々人が自分の家やお店などの駐車場スペース確保のために私有橋をかけて用水に蓋(暗きょ化)をしてきましたが、金沢市が1996年に制定した「金沢市用水保全条例」によって、用水の蓋が次々に開けられ(開きょ化)、今では一市民としても慣れ親しんだ愛着ある景観が定着していると感じています。

長町付近の用水の暗きょ化と開きょ化の比較写真 (金沢市の歴史都市推進課のページから引用)

今回は特に開きょ化が進んでいる金沢の街中エリアを中心に、長い歴史を持つ用水に着目し、NPO用水の街 金沢の発起人である越後さんと用水マップを片手に用水沿いを歩きながら普段の活動内容や用水への思いなどを伺いました。

街中を流れる用水の全体感をつかむために活躍した用水網マップ

NPO用水の街 金沢 立ち上げのきっかけ

用水沿いを歩きながら用水への思いを話すNPO用水の街 金沢 越後龍一さん

推しの用水について満面の笑みで紹介してくださる越後さんは、私が金沢へ移住する半年ほど前の2020年に東京から金沢へ移住し、飲食店を中心としたデジタル活用支援やアーティストインレジデンスの運営、移住者向けの求人サービスなど幅広く活動されていて、その多様な活動のうちのひとつが用水に関する実験的なイベントの運営や情報発信を行うNPOです。

もともと街歩きが好きで、街中に突如現れる石碑などの裏に刻まれた情報を読む習慣から、長い歴史を経ても街中に残り続けている金沢の用水に哀愁を感じ、歩くほどに毎回発見があることにも魅了されていったようです。

インタビュー中にも突如現れる石碑の一例

用水への思い「あらゆる蓋をひらき、再び蓋をさせない」

越後さん曰く、このまま何かアクションを起こさなければ、利便性の追求のために再び用水に蓋をされてしまうという危機感から、用水に新たな価値を見出し、情報発信をしてファンを増やすために立ち上げたのが当初の理念。そのために、行政や教育機関とも連携した活動をどんどん表に出し、沢山の人に用水への愛着を持ってもらうための接点を多様な切り口で作り出しているようです。

【過去に実施されてきたイベントの一例】
・地元写真家と用水沿いを歩くフォトツーリズム
・県外から路上園芸家をゲストに呼び用水沿いのガーデニング鑑賞会
・市役所の歴史都市推進課員とめぐる用水の清掃ツアー
・親子向け用水鑑賞ツアー
・各用水ツアーの写真展 @市役所
・用水を活用した1日限定の川床

過去に実施されてきたイベントの一例 (Instagramから引用 @yousui.kanazawa)

NPO用水の街 金沢がこれまでに実施されてきたイベントには老若男女や用水への興味関心の大小問わず多くの方々が参加され、最近では常連の参加者も増えてきているようで、まさにファンづくりとはこのことかと感じました。私が実際に川床イベント当日に現地で沢山の参加者と話してみて、用水の話題をきっかけに世代や国籍を超えて談笑の輪が広っていく実体験から、用水を起点としたコミュニティ形成の可能性を体感できました。

街中を流れる用水に川床を実験的に設置した1日限定イベントを現場で振り返る

用水を”ひらく”ことで広がるコミュニティ

今回のインタビューを通して、用水を2つの意味で”ひらく”ことの相乗効果を感じました。
1つ目の”ひらく”は、1996年以降に用水を覆う蓋がハード的にひらかれていき、金沢らしい景観の維持に貢献している点。
2つ目の”ひらく”は、NPO[用水の街 金沢]の数々の実験的な取り組みにあるように、地元に昔から身近にあって自分たちでは気付きにくい用水の価値を客観的に捉え、ソフト的にひらくことで多種多様な人と用水の接点づくりに貢献している点。
これらが上手く重なり合い、今後も用水コミュニティがゆるやかに広がっていく予感があり、一市民としても嬉しい発見となりました。

日本の全国各地に多数ある暗きょ化された用水路というインフラについて、場所によっては”ひらく”ことで利便性とは別の観点での地域への誇りや愛着、観光資源や集いの場所など様々な恩恵が生まれてくるように感じ、今後の用水を見る目が激的に変わりました。

街中の暗きょ化された用水の一部に思いを馳せる

プロフィール

写真
越後 龍一(えちご りゅういち)
46000株式会社 代表取締役

2020年に東京から金沢へ移住。県内と県外の共創をテーマに、次世代に向けた事業を作ることを目標に活動。地域の課題をデジタルで解決する会社、46000株式会社の代表取締役を務めるほか、移住者向け求人サービス「イシカワズカン」や、コワーキングスペース「コワーキングスクエア金沢香林坊」を運営している。1児の父。
https://www.instagram.com/tebasakidaisuki/

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