第8回
未来志向の僧侶たち
from 愛知県
ぼくの実家はお寺です。
そしてぼくは、実家のお寺の副住職でもあります。
お寺の未来に、不安がないとはいえません。
昨年、話題になった鵜飼秀徳『寺院消滅 失われる「地方」と「宗教」』(日経BP社)では、日本にある77,000のお寺のうち3-4割が、この25年間に消滅するかもしれないと予見しています。
日夜、様々な業種のマーケティング活動に関わっていますが、なかでもお寺業界は病根深く、明るい展望が見えにくいと感じます。
そんななか、ぼくが期待を寄せるのが、MBAホルダー僧侶 松本紹圭さんが主宰する「未来の住職塾」と、そこに集う未来志向の僧侶たちです。
松本さんは『MBA坊主の「仕事に活きる仏教」』というコラムをビジネス誌に持ったり、大学の同級生でコンサルティング会社出身の井出悦郎さんと、一般社団法人「お寺の未来」(oteranomirai.or.jp)を立ち上げてお寺の経営支援を手がけるなど、現代社会と伝統仏教の折り合いのつけ方を模索されています。(2013年にはダボス会議のヤング・グローバル・リーダーズに選出されています)
2012年には、僧侶向けに経営学やマーケティング論の視点を取り入れて、「寺業計画」を練り上げる「未来の住職塾」を開講されました。
いまの自分にうってつけと、ぼくも昨年この塾に参加しました。
受講生のほとんどは僧侶として活動されており、平均年齢は40代前半。
ベッドタウンや地方のお寺から学びにきた方が多く、宗派がちがっても、お寺の苦境を分かちあう同志といった雰囲気です。
座学とワークショップからなる講義では、プロ僧侶のコミュニケーション能力の高さを実感しました。
人の話をきちんと聞く傾聴の姿勢、おたがいの意見を尊重する丁寧な応対、厳しい現状を打破したいという熱い思い、気づきを得たことに素直に感謝するなど、気持ちのいい、お手本のようなワークショップが毎度行われていました。
また、地方のお寺は人口減少の加速化に向き合っているせいか、目の前の「個人の死」だけでなく「地域コミュニティの衰退」まで視野を広げて、考える方が多いことも印象的です。
例えば、愛知県豊橋市 西光寺の小原泰明さん(塾の卒業生)は、「地域の喜びと悲しみを包み込むお寺」をビジョンに掲げておられます。
お寺の祭り(酉の市)を「地域の喜び」と捉えなおして注力されたところ、赤字続きだった祭りに活気がもどり、「身近な地域の寺」として見なおされている実感があるとおっしゃっていました。
メディアにも、地域活性の事例として取り上げられています。
ほかにも、ぼくと同期生で福井県大野市 円立寺の赤星龍寛さんは、得意の「水行」をテーマに、大野市の“名水による街づくり”に呼応する活動を発表されました。
地方創生の策が種々講じられているなか、地域の歴史や文化にくわしく、顔をつなぐことができ、コミュニケーション能力が高くて、その地に骨を埋める覚悟があるプロ僧侶という人材は貴重です。
10年後の日本。こうした未来志向の僧侶たちが「コミュニティ・デザイナー」となり、地域活性のキープレイヤーとして活躍しているかもしれません。