第13回
みらいの食卓
~ヤンキーフード「なごやめし」の可能性~
from 愛知県
2016年10月1日から11月13日まで、『なごやめし博覧会2016』が開催されていた。なごやめし博覧会とは、名古屋市内の飲食店を回遊する「なごやめし食べ歩き」と、新たな「なごやめし」を投票で決める「新なごやめし総選挙」という2つの目玉企画からなるイベントである。「新なごやめし総選挙」の結果、見事2016年の新なごやめし・グランプリに選ばれたのは『天ぷら やじま。「かき揚げまぶし」』、準グランプリは『旬菜 八宣「ペッパー鶏部セット」』である。
「なごやめし」とは、「味噌かつ、手羽先、ひつまぶしなど名古屋及び近郊で広く受け入れられ、愛されてきた地域独特のメニューで、家庭や飲食店で広く食されているもの」(なごやめし普及促進協議会)のことである。他にも、味噌煮込みうどん、味噌おでん、どて煮、きしめん、台湾ラーメン、あんかけスパ、鉄板スパ、カレーうどん、小倉トースト、エビフライ、天むす、味噌とんちゃんなど、以前から人気のものだけでも相当の種類がある。2005年に開催された「愛・地球博」を契機に、この地における特徴的な食文化の認知度が高まり、人気がその後もずっと続いているのである。
2013年12月に「和食;日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録された。(1)多様で新鮮な食材とその持ち味の尊重、(2)健康的な食生活を支える栄養バランス、(3)自然の美しさや季節の移ろいの表現、(4)正月などの年中行事との密接な関わり、という4つの特徴を持つ和食が保護すべき人類の遺産として評価されたものである。こうした繊細かつ洗練され、健康にもよい「和食」と比べ、「なごやめし」は、味噌、醤油等の濃い味付けで、見た目のインパクトや食材の組み合わせに驚く方も多い、どちらかというとB級グルメの宝庫である。
なごやめしの特徴は、「インパクト&イノベーション」と言えるのではないであろうか。一つ目のインパクトの強さは「味が濃い」という点である。なごやめしの多くには、「豆味噌(赤味噌)」と「たまり醤油」が使われていて、日本で発見された味覚「うま味」の強さをストレートに伝え、味の濃さを生み出している。うま味が強いから、食べているうちにクセになってしまうのだという。
二つ目のイノベーションとは、言わば「組み合わせ」の妙である。博報堂ケトル共同CEO 嶋浩一郎『名古屋人に学ぶ発想法』によると、「トーストとあんこという異質なものを組み合わせた小倉トースト。雑貨と本を一緒に売る「ヴィレッジヴァンガード」。多彩なトッピングを揃えた「COCO壱番屋」。みんな名古屋発です。ひつまぶしも、ひとつの料理を3つもの方法で楽しむ。名古屋人は、異質なものを組み合わせることに優れているのです。この姿勢を、ぜひ学ぶべきです」ということになる。
グローバル、アーバンな価値として「和食」が受け入れられる一方、その対極?として、ローカルな、人間の内なる欲求の発露といった感もする「なごやめし」が広まっているのが面白い。洗練さや健康に過度にこだわるのではなく、おいしいものはおいしいと自分たちの欲求に従い行動する「マイルドヤンキー」(博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー 原田曜平)型の嗜好に合いそうである。
「2015年ミラノ国際博覧会」にて行われた「あいち・なごやフェアinミラノ」で、「なごやめし」がふるまわれ、当地でもかなり好評だったそうである。最近ではアジアに進出する「なごやめしレストラン」チェーンも多く、日本独特の味への注目を集めている。今後「なごやめし」は世界の各地でも通用していきそうな勢いである。「和食」と「なごやめし」は対立するものではない。両方を時と場に応じて使い分け、味わうのがこれからの時代の新たな食/食卓にあり方なのかもしれない。
先日「最も行きたくない街」という非常に残念な調査結果(注1、2)が発表された名古屋であるが、「なごやめし」には、観光資源があまり豊富ではない名古屋へわざわざ行く理由をつくり出してくれる可能性も秘めているのではないであろうか。
(注1)名古屋市観光文化交流局「都市ブランド・イメージ調査(2016年6月実施)」によると、名古屋は、全国8都市で最も市民推奨度が低く、魅力に欠けるまちで、都市イメージが確立されていない、という結果が示された。
(注2)Jタウン研究所「行きたくない街」ランキング(2016年9~10月実施)でも、全国に調査対象者を広げ、「都市ブランド・イメージ調査」の8都市から選択してもらったところ、2位大阪(20.4%)に大差をつけ、トップは名古屋(44.1%)という結果であった。