みらいのめ

さまざまな視点で研究員が「みらい」について発信します

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2018.12.11

第23回

今宵も、未来も、ワインで乾杯!

from 宮城県

生活総研 客員研究員
東北博報堂

武田 陽介

日本酒だけで、酔うなんて

酒どころとして知られる東北。これまでは、酒=日本酒という認識が一般的でしたが、近ごろは日本酒以外のお酒も東北を盛り上げています。
例えば、ウィスキー。2014年に放送を開始した『マッサン』の影響で、宮城・作並にある竹鶴政孝ゆかりの醸造所が盛況に。つい最近では、山形の焼酎メーカーが、ウィスキーの醸造所を手掛けることがニュースになりました。また、クラフトビールのブームを受けて、オクトーバーフェスト(仙台)には、毎年多くの人が足を運んでいます。もともと、のんべえの土地柄である東北ですから、お酒を楽しむ文化が育まれやすいのかもしれません。
そんなお酒大好きエリア東北で、じわりじわりと勢力を広げつつあるのが、ワインです。ワイン通の方ならご存知かもしれませんが、これまで東北のワインの名産地といえば山形(特に赤湯や高畠など)が有名でした。しかし、いまでは、東北各県にワイナリーがあり、ワイン関連のイベントや事業が盛り上がりをみせています。2年前から宮城では「バル仙台」という東北のワイナリーが集まるイベントが開催されており、高まる東北人のワイン熱を感じることができます。

日本酒の聖地ともいえる東北で、市民権を得たワイン。そこで今回は、この勢いが、今後どこまで加速するのか?宮城で醸造所を立ち上げた秋保ワイナリーの社長・毛利親房(ちかふさ)さんにお話を伺いました。

お酒に弱く、意志は強く

まずご紹介したいのは、毛利さんのワイナリー経営の経緯と動機です。毛利さんはもともと設計士として建築事務所で働いていたのですが、震災直後、設計の仕事で関係のあった被災自治体の復興会議などに参加していたそうです。会議の中で、漁師や農家の方たちが抱える不安や悩みを目の当たりにし、生産者のために何かできることはないだろうか?と考え始めたそうです。そして、復興事業としてのワイナリー運営が頭に浮かんだとのこと。
当時は、その構想は自治体に提案するためのものであり、まさか自分がワイナリーの経営をすることになるとは考えていなかったそうです。「わたしは、お酒も強くないし、ワインもとりたてて好きというわけではなかったんです。ただ、食との結びつきが強いワインをつくることで、生産者の応援ができると確信していました」と、毛利さんは当時を振り返ります。

ワイナリーのオープンまでは、苦労の連続で、目標を見失いそうになった時もあるそうです。しかし、秋保というブドウの栽培に適した土地と運命的な出会いを果たし、家族やさまざまな方のサポートにより、ワイン造りが、夢から現実のものになっていきました。
そして、2015年12月に悲願のワイナリーがオープン。お話を聞いていて、秋保の近隣エリアである作並にウィスキーの醸造所をつくった竹鶴政孝と毛利さんがシンクロしているようにも見えました。

じものとジモトをマリアージュ

ワイナリーのオープンから、4年がたった今でも、毛利さんが大切にしているコンセプトがあります。それは、“マリアージュ”(ワインと料理の相性の良さ)。宮城の食材とワインを掛け合わせた、食の愉しみ方をどんどん提案していくことで、被災した沿岸部の魚介類や、野菜やお肉など地元の食材を盛り上げていくことが狙いです。
単にワインをつくるというより、宮城の食、ひいては生産者や産業をいかに元気にしていくかという観点でワイン造りが行われていることが毛利さんのお話から伝わってきます。「今年はメルローという品種を使ったフルボディのずしっとしたワインが醸造できたので、お肉、ジビエと合わせたいというレストランの要望をかなえられるようになったんです」と“マリアージュ”のひろがりをうれしそうに語ってくれました。実際に、宮城の県産品とワインのマッチングをテーマにグルメフェアを開催するなど、積極的に“マリアージュ”を推進しています。

そしてさらに、“マリアージュ”を進化させる動きとして、“テロワージュ”というアクションを展開しているそうです。“テロワージュ”とは、ワインと食のマッチング(マリアージュ)に、 “テロワール”(風土や気候、そこに住む人の営み)という要素を掛け合わせて、ワインを起点に食だけでなくその土地の文化や風土を発信していくプロジェクト名のようなものだそうで、このアクションはワインに限らず、各県ごとの日本酒などの酒造メーカーにも参画してもらい、地域×お酒×食という組み合わせを東北のさまざまな場所で展開していくそうです。
なんと、この動きを支援するクラウドファンディングの立ち上げも予定しているとのこと。東北自慢のおいしいお酒をリワードとして還元していくそうです。

醸造していたのは「地元のにぎわい」だった

ワインが地域の盛り上げ役として活躍していく未来の実現に向けて、奔走する毛利さんですが、地方の人口減少やインバウンドの呼び込みのためにワイン以外の事業にも注力していることがあるそうです。
例えば、ツールドフランスのエタップというレースの誘致。世界11カ国で開催されている自転車好きのためのレースで海外から3,000人ぐらいの観光客を呼び込むことができるコンテンツだそうです。
また、秋保エリアの観光の活性化と地域資源の活用を目的に空家となっている古民家の再生プロジェクトも推進。「古いものを手をかけて再生することで、価値が生まれることを地元の人に知ってほしい。耕作放棄地が増えて、里山の景色が荒れていくのをどうにか止めたい。秋保の宝をなくしたくないんです」と毛利さん。そのプロジェクトから誕生した「アキウ舎」というカフェレストランでは、ワインの提供はもちろん、宮城県内の物産を販売しており、宮城や秋保の魅力を発信しています。レンタルサイクルの貸し出しや、ガイド付きのサイクリングツアーも行っているそうです。

古民家を再生して誕生した「アキウ舎」。カフェと秋保観光の拠点として営業中。

ワインをベースに、地域のにぎわいを次々と企て、実現している毛利さん。そして、地方創生の立役者となり、ますます勢いが増していきそうなワイン。東北で、ワインと地域の未来がどのようなマリアージュを起こすか。その動向から目が離せなそうです。

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