みらいのめ

さまざまな視点で研究員が「みらい」について発信します

2020.10.23

第36回

「お城」から考えるみらい

from 石川県

生活総研 客員研究員
北陸博報堂

安立 優也

新しい観光ルートが会社を通るので、歩いてみた

会社が観光ルートの拠点になりました。
コロナ禍の影響で少し遅れていましたが、2020年6月、北陸博報堂が入居するビルの一階に「金沢中央観光案内所」がオープン。そして翌7月には、そこから徒歩3分くらいの場所にある「鼠多門・鼠多門橋」の復元整備が完成。これによって金沢の歴史・文化を歩いて体験できる「加賀百万石回遊ルート」が完成しました。せっかくルート上に入ったのだから、とさっそく歩いてみました。
観光案内所と同じビルである会社を出て、正面の尾山神社へ。神社の横を抜けて、奥まで進むと、見えました。復元された鼠多門・鼠多門橋。この鼠多門・鼠多門橋は過去老朽化によって撤去されていましたが、2014年からの調査、2018年からの工事で当時の姿を復元することができたそうです。

この橋が架かることで、金沢城へすごくアクセスしやすくなりました。

そして、橋を渡って金沢城公園に入ると玉泉院が見えます。
まさに灯台下暗し。
会社から徒歩5分以内でこんな風景が見られるなんて、知りませんでした…。
一気に日常から切り離された感覚に。

ここからさらに歩けば、金沢観光の王道である兼六園や21世紀美術館にも通じ、さらに10月にオープンする国立工芸館にも行け、金沢中心部を一通り体験できる散策ルートになっていると思います。
さて、金沢城では、今回復元した鼠多門・鼠多門橋の他に、二の丸御殿の史料も見つかっており、橋などと違い規模がかなり大きなものになるため、今後長い年月をかけて復元していく計画もあるそうです。
じゃあ、他の地域の城ってどうなんだろうと気になり、インターネットで調べてみたところ、「城」ブームの影響や観光資源としての期待もあってか、全国的に城の復元計画は多いようです。復元にはそれなりのお金と労力が必要になりますが、城は「日本らしさ」を象徴するわかりやすい建物なので、きっと合意も得やすいのかな、と。海外の人から見ても、「侍」「忍者」「お城」などがわかりやすいシンボルになっているんでしょう。

現代を象徴するものって何だろう

こういった文化財の復元は素晴らしいと思う一方で、ちょっと遠い未来のことを想像してみると、ふと疑問が湧きました。この先、城は保存・復元されることで残っていくかも知れないけれど、その他に残っているものはなんだろうか?と。
現代に造られた建物が、何百年も経った未来に復元や補修をしてもらえる対象になり得ているのか気になってくる。きっと、未来の人が復元したいと思うような建物は、その使われ方や存在意義まで含めてその価値を検討されるのだろうと思います。
果たして、現代に造られたもので、そんな象徴になり得そうなものはあるだろうか。
ぱっと思いつくのは東京タワー。日本の高度経済成長のシンボルとして残っていきやすいのかな、と思います。大阪にある「太陽の塔」も芸術作品のシンボルとして残っていてほしいなと個人的に思います。
金沢だと、国内外問わず大人気の21世紀美術館あたりかな?なんて勝手な想像も。

他には、建築物ではないですが「景観」なども未来に残したいものとして、よく取り上げられていますね。
こうして見てみると、現代に生み出されたもので、長く未来に残っていきそうなものって意外に少ないような気もします。経済重視の現代では、コストパフォーマンスの観点から、そういった時間感覚の長いものを生み出しにくくなっているのかも知れません。

「城」を超えられるか

もしこの先の未来で、江戸時代の城や庭園などだけが保存・復元されるようでは、現代を生きる身として少し寂しい気もします。なんだか、現代が江戸時代に負けてしまっているような気分になりませんか。
未来の人からそう思われないためにも、今を生きる自分たちには、歴史を大事に保存・復元し、受け継いでいくだけではなく、この先に残すものを生み出す役目もあるのではないか、と思うのです。もちろん、年月が経って初めて評価されるものも多々あるので、今の段階ではわからないことが多いのですが、それでも「城」を超える象徴を、日本は作り出せていないようにも思います。遠い未来から見たときに、今の日本を象徴するものは何になるのだろうか?
過去を振り返り大切にしつつ、現代に生きる自分たちは、未来に向けてどんなものを残していけるのか。
話が大きくなってしまいましたが、未来のことを考えながら、歴史を観光してみると、また違った発見があるかも知れません。
もし金沢へ来られることがあったら、代表的な観光地をぐるっとコンパクトに歩いて回れる、「加賀百万石回遊ルート」、おすすめです。

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