みらいのめ

さまざまな視点で研究員が「みらい」について発信します

2022.03.04

第41回

“Dig(ディグ)る旅”のすすめ

from 兵庫県

生活総研 客員研究員
博報堂 関西支社

平石 大貴

突然ですが、最近旅できていますか?
コロナ禍で、なかなか海外旅行に行けない中、私はあまり知らない・行ったことがない近くのまちを調べて、足を運ぶのがマイブームになりました。

きっかけは兵庫県加古川市で何気なくふるさと納税で届いた返礼品の牛肉の美味しさに驚いたことでした。
調べてみると、加古川市はあの神戸ビーフの聖地であり、靴下の日本三大産地でもあるとのこと。そして写真のような「かつめし」がソウルフードでもあるそうです。

※「かつめし」とは“ご飯の上に叩いて平たくしたビーフカツをのせ、デミグラスソース系のたれをかけたものを洋皿に盛り、お箸で食べる”メニューです(加古川観光協会HPより定義引用)
他にも“日本初・会いに行く返礼品”まで導入するユニークさもある市でした。

そうしているうちに段々加古川市に興味が湧いてきて、実際にプラプラしに行くと、観光客っぽい方はあまりいない場所で予期しない美味しさ・美しさ・人のやさしさと出会い、何かツウな楽しみ方をしているような気分になりました。

そして去年は、兵庫県尼崎市の返礼品を入手したことをきっかけに、加古川市の時と同じように文化や背景、市民の取り組みを調べてみました。
そこで「あまらぶ大作戦」というシティプロモーションがあることを知り自分のなかの尼崎のイメージが変わりました。少しご紹介したいと思います。

●愛に溢れた「あまらぶ大作戦」

かねてから尼崎市は、市内外から「あま」と呼ばれていたそうです。
「あまらぶ大作戦」とは、「あま」をより市民が誇れるまちにするため、「あま」の市民のまちへの愛(らぶ)を呼び覚まし、共に課題を解決する2013年から続くシティプロモーションです。

具体的には
・「みんなが先生、みんなが生徒、どこでも教室」がコンセプトの学び・交流の場「みんなの尼崎大学」
・市内の小中学校でOB・OG の大学生等による指導を行う「放課後学習」
・市民参加型防犯チーム「あなたを守り隊!」
といったあまがさきが好きなひと(=「あまらぶ」な人)を増やし共に課題を解決する取組だけでなく、
・「あま」の人びとをモデルに、まちのエネルギーを写真に込めた「ブランドブックプロジェクト」というユニークな情報発信まで行っていました。

ブランドブックの写真、素敵ですよね。
こうした取り組みの結果、尼崎市民の市に対するイメージやおすすめしたい気持ち(地域推奨意欲)などのスコアが大幅に向上したようです。

●知らないまちを“Dig(ディグ)る旅”で感じたみらいのめ

近年レコードが再ブームとなっているなかで「(レコードショップの大量のレコードのなかから)音源を探す」=「Digる」というスラングが一般の若者にも使用されるようになっているそうです。
例)高円寺の古着屋をDigってたら良いアウター見つけた

先ほどの尼崎に話を戻すと、「あまらぶ大作戦」を知ってから尼崎に行ってみると、スケボーをしていたお兄さんに親切にしてもらったり、2軒目の飲み屋のおばちゃんと語りあったり、想像を超えて美味しい町中華を見つけたりとたくさんの偶然の出会いがありました。
周りが気づいていないまちの魅力を“Digった”みたいで、気づくと普段の旅行とは異なる達成感のようなものを得ていました。そして同時に、この“Digる旅”は価値がこれからどんどん高くなっていくのでは…というみらいのめを感じました。

というのもコロナ禍の反動なのか、ここ数年SNSには競うように観光名所やグルメがアップされ、
“「話題になっているあそこに行ったことを発信したい」「流行に乗っている自分を発信したい」という欲求がベースとなった旅が増えていると感じているからです。
さらにそう遠くない未来には「オンライン旅」がさらに一般化したり、「メタバース旅」が行われたりと、“実際に足を運ばずとも、世界中(もはや現実ではないものまで)の流行観光地をつまみ食いできる”状態になっていくでしょう。
そうした環境で、逆に自分で足を運ぶ“Digる旅”の価値はどんどん高まっていくと思います。

先ほどの加古川市も尼崎市もふるさと納税というきっかけがなければ、
私自身が行くことはおろか、知ろうともしなかったまちです。
それが今ではすこし身近で、人に話したいくらいには好きなまちになりました。

せっかく関西に住んでいるので、今年は和歌山県や滋賀県などに新しい“Digる旅”をしにいこうと思います。
誰しも近くにあるのに知らなかったり、固定観念を持っていたりするまちがあると思います。
皆さんもそんなまちの魅力を“Digる旅”してみてはいかがでしょう?楽しいですよ!

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