みらいのめ

さまざまな視点で研究員が「みらい」について発信します

2023.02.07

第46回

“サカエ”で実感した街と街の競争と成長

from 愛知県

生活総研 客員研究員
博報堂 中部支社

花室 智有

近年、名古屋随一の繁華街であり、またビジネス街でもある、栄(サカエ)エリアが元気です。

2020年9月の栄エリアを南北に射抜く久屋大通公園の大規模リニューアルを皮切りに、高層マンション、高層オフィスビルの建設が相次ぎ、高級ホテルの開業の計画も複数進行していると聞きます。20年の秋以降、1〜2年で、目に見える街の風景、そして雰囲気がどんどん新しくなっています。

栄エリアのランドマーク リニューアルされたテレビ塔と久屋大通公園(テレビ塔展望台の下段は高級ホテルになっています)

超高層オフィスビルの建築ラッシュが続いています

思い返せば、2020年より前までは名古屋駅周辺に勢いがあり、栄は「元気がない」と言われていました。高校卒業まで東海地方で育ち、転勤で近辺で働くことになった私も「栄エリアの地盤沈下」を強く実感していたひとりです。

実際、2000年の駅ビル・JRタカシマヤ開業を契機に、名古屋駅エリアでのリニア線の開発がスタートした2016年頃まで断続的に、ものすごい勢いで名古屋駅周辺が再開発され、超高層ビルが相次いで建設されるとともに、栄に拠点を置いていた企業も名古屋駅周辺に移転、という話をよく聞きました。名古屋駅周辺の人の多さに驚く一方で、一昔前(といっても3〜4年前です)の栄エリアには冒頭の久屋大通公園にも人通りが少なく、その直下にあるサカエチカ(地下街)を歩く人の数の方が多いイメージがありました。(地下に人が多く、地上に人があまりいない、という地下街が発達した名古屋エリア特有の現象だと思います。)
名古屋に出張の際も、名古屋駅エリアから一歩も出ずに済んだ、という方も多くいらっしゃったのではないのでしょうか。

栄エリアと名古屋駅エリアの“競争”の観点で言えば大規模再開発が続いた名古屋駅エリアが優位だったという言い方ができます。

ところが、20年秋の久屋大通公園リニューアル以降は、その形勢が逆転とは言わないまでも、非常に多くの人が来訪するようになり、それまでは感じられなかった勢いが栄エリアに戻ってきたと感じられます。街を歩けば、一時の元気のない感じはありません。

肌で感じる、街と街の成長、競争力、勢い。
名古屋駅エリアと栄エリア両方の経過を目の当たりにして、地方都市の良いところは、この街と街の“成長”、“勢い”をより肌で実感できることにあると感じるようになりました。

というのも、東京のような“超”大都市に住んでいると、勿体ないことですが、「新宿」「渋谷」「池袋」「銀座」など魅力的な大きな街がたくさんあっても、なかなか訪れることなく時間が過ぎていく、というケースが非常に多いような気がします。先日も久々、5年以上ぶりに渋谷エリアに降り立ちましたが、街よりもまず駅自体の変わりぶりに驚かされてしまいました。東京のような大都市では「近いのに遠い街」が何か所もあることに気付かされます。

住む場所、働く場所に大きく依るとは思いますが、例えば、東京でいうと、城西に住む人は城東にはなかなか足を運ぶことがなく、城東に住む人はその逆、といったケースが多いのではないでしょうか。
ひとえに、東京が大きい、広いからこそ起こることではあるのですが、実際に複数の異なる都市圏に住み、働いた経験から考えると、成長・移り変わりを実感できる程度に日常的に訪問している(月1回程度?)街の数は数カ所くらいなのでは、と思います。

大きな街と街の距離が離れている東京では、どうしても訪れることのない街が何か所も生じるのですが、これが東京以外の都市だと、大きな街の距離が近いため(名古屋で言えば主要な街は頑張れば徒歩でもいけます)、「名古屋駅エリア」では働いたり電車を乗り換えたり、「栄エリア」ではショッピング・食事をするという形で、年に数回はどちらの街にも訪れるケースが一般的になります。郊外に住んでいても、ショッピングなどで年に一度は両方のエリアに足を運ぶケースが多いのではないでしょうか。「名古屋駅周辺の勢いが凄い」「栄エリアが盛り返してきた」この実感は私だけではなく、東海地方に住む人は多くの人が共感できるトピックスなのでは、と思います。
そう考えると、日常的に訪れる街の数は、東京と地方都市ではそんなに変わらない、ひょっとすると地方のほうが多いのかもしれません。

名古屋エリアでいうと、栄エリアの勢いに対して、きっとつぎは名古屋駅エリアの勢いがまた盛り返して来るのでしょう。こういった街と街の“競争”を通した成長、変わりようを日々の時間の推移とともに体感する、という経験から、自分の行動範囲の狭さを反省するとともに、双方の街への愛着が増した気がしています。

博報堂生活総研の研究(2022年12月日経クロストレンドに掲載)によると、『距離に関わらず「多くの多様なエリアに訪問している人」は、幸福度が非常に高い』そうです。東京と違い、住む場所・働く場所との距離が短い地方エリアのほうが多様なエリアを日常的に訪問しやすいということを考えると、東京・大阪ほどの大きさ・数はないけれども気軽に移動できる交通の便が発達していて街と街のアクセスがしやすい名古屋エリアのような規模感の都市の方が幸福度が高い?のかもしれません。

出張、旅行などで名古屋にお越しの際には名古屋駅から栄エリアまで、ぜひ足を伸ばしてみてください。

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