第2回
方言が、社交的になってきた。from 東北
from 東北
■not呪文but方言
ドウモ オバンデス コダニ ユギガ フッドハ オモワネガッタナイ
タマゲダゲンチョ トウキョウダド デンシャニ トジコメラッチャリ
アダニ タイヘンナゴドニ ナンダガラ オッカネーナ
これは、某RPGゲームの復活の呪文ではなく、私のふるさと福島の方言です。ちなみに標準語に翻訳すると、
どうも こんばんは こんなに 雪が 降るとは 思いませんでしたね
ビックリしましたが 東京では 電車に 閉じ込められたり
あんなに 大変なことに なるだなんて 恐ろしいですね
と言う意味になります。今回、レポートのテーマを「方言」としたので地元の言葉ではじめさせていただきました。
■なぜ、方言か?
時は、地方創生。「地方」と名のつく書籍がベストセラーになり、各自治体がバズ動画の再生回数を競う風景が日常化しています。これほど地方全体にスポットライトが当たるということが、喜ばしいと感じる半面、地方の生存競争が本格化していることを示唆しているようで恐ろしくもあります。しかし、「地方消滅」と言われても、ノストラダムスの予言を聞いているようで、自分ごととして捉えきれないのが本音でした。ただ、ノストラダムスの予言と明らかに違うのは、人口の減少が事実として進んでいること。その事実を受け止めた時に、ふと、“人口が減っているということは、その土地の言葉を使う人が減っているということでは?”という疑念が頭に浮かび、ハッとしました。人口という無機質な数字ではなく、方言という故郷の文化や歴史や生活の根本をなす言葉が消えていくことを想像してはじめて、地方が無くなるという危機を自分ごととして捉えることができたからです。
帰郷した際に、家族や地元の友人との会話で方言を聞くと、心がふるさとに戻ってきたように感じ、安堵感を抱くことが多々あります。自分にとって大切な言葉だからこそ、方言の今を知ることで、その未来や可能性を探ってみたいと考えたのです。
■水先案内人のもとへ
方言の未来を紐解くヒントを探るべく、スペシャリストから話をうかがうことにしました。向かったのは、東北大学方言研究センター。各地方の方言の分析・研究はもちろん、東日本大震災の直後から、支援者用に地元の方言パンフレットを制作するなど、方言研究を被災地支援に役立てていらっしゃる小林隆先生のもとを訪ねました。
小林先生へのインタビューを通して分かってきたことは、方言の性質が変わってきているということ。基本的に方言は、特定のコミュニティ(地域)の構成員同士をつなぐ、内向きの言葉なのですが、一方で、「方言は、その土地の人同士だけでなく、その土地の人と外の人の気持ちを結びつける役割があり、外に向かって発信されることが増えてきている」と小林先生は言います。確かに、東国原元宮崎県知事の「どげんかせんといかん」やNHK朝の連続ドラマ小説『あまちゃん』の「じぇじぇじぇ」が全国的に話題となり流行語大賞を受賞したのはその証拠と言えるかもしれません。また、キャッチーで、人の心にスーッと入っていく方言の魅力をコンテンツやビジネスに活かす動きも盛んです。例えば、『方言彼女』というテレビ番組が男性陣の「萌え」を獲得したり、六本木に方言キャバクラがオープンしたとの情報も(艶めかしい方言を耳元でささやかれた日には、入れなくてもよいボトルを入れてしまいそう…)。つまり方言が、内だけでなく外にも活躍の場を広げているのです。
■これぞ、方言2.0!
方言の進化はそれだけにとどまりません。方言は外から内へ発信されることでも、効果的な作用をもたらすことがわかってきました。東日本大震災の際、自衛隊の隊員たちがヘルメットに「がんばっぺ!みやぎ」というメッセージステッカーを貼った時のこと。「がんばろう」という標準語ではない方言での励ましにより、同じ目線に立ち、過酷な状況をともにする仲間であるという連帯感や安心感を多くの被災者が抱いたそうです。海外の街を旅する時に、「コンニチハ ニッポン」と外国の人に声をかけられるだけで、寂しさが紛れ、なんとなくうれしい気持ちになることと似ているかもしれません。長年、方言の研究に携わってきた小林先生も、外からの方言発信が内の人の心を動かしたことは意外だと感じたそうです。
少子高齢化に加えて、東日本大震災や原発事故の影響により、東北では方言の継承にアゲインストの風が吹いています。しかし、クローズドな言葉から、よりオープンな言葉へ。方言は今まで以上に社交的となり、自身の役割を拡張させています。それは、あたらしいコミュニケーションや、あたらしいムーブメントを巻き起こす兆候であるとわたしは考えます。その意味で方言は、地方創生を促す、“復活の呪文”になりえる可能性を大いに秘めているのです。