第14回
みらいのお寺は企業のマーケティング・パートナー?
from 奈良県
■いま話題の「おてらおやつクラブ」
「おてらおやつクラブ」という活動をご存知でしょうか?
昨年末、YAHOO!ニュースのトップで取り上げられたほか(http://bylines.news.yahoo.co.jp/yuasamakoto/20161227-00065172/)、TVや新聞でもその活動が紹介されており、どこかで耳にしたことがあるかもしれません。
あらためて紹介すると、おてらおやつクラブとは『お寺にお供えされるさまざまな「おそなえもの」を、仏さまからの「おさがり」として頂戴し、全国のひとり親家庭を支援する団体との協力の下、経済的に困難な状況にあるご家庭へ「おすそわけ」する活動です』(webサイトより抜粋)。
2013年に活動をスタートし、現在では参加寺院は全国517ヵ寺、「おすそわけ」先の支援団体は150を超え、これまでに支援した物資は計35トンにのぼるとか。これまでありそうでなかったお寺の活動がさかんにメディアで取り上げられるのは、「子どもの6人に1人が貧困状態」という問題への解決策として期待されているからのようです。
■発送作業のお手伝いで奈良へ
ぼく自身、実家がお寺ということもあり、以前から気になっていた善福寺(奈良県天理市)さんの「おすそわけ」発送作業に参加してきました。
善福寺と住職の桂浄薫さん
ご住職の桂浄薫さんにごあいさつして本堂に上がると、阿弥陀如来像の前にお供えものがたくさん!(冒頭写真)小分けにしやすいお菓子や、2Lペットボトルに詰めたお米などが積まれています。一緒にお経をお唱えしたあと、奥様とお子さんとお手伝いに来られた女性とで、5つの福祉団体宛のダンボール箱に手際よくお供えものを詰めていきます。
作業していると、自分にも小さな子どもがいるせいか、なんとも言えないしみじみした気持ちになります。これはどんな子どもの手に渡るのだろうか、せめてこのおやつを食べる時にはうれしい気持ちになってもらいたいと思いをはせるのでした。この日はクリスマス前だったので、クリスマスパッケージのお菓子も詰めました。
■おそなえにバウムクーヘン1万個!
その後、おてらおやつクラブ代表の松島靖朗さんにお話をうかがいました。松島さんは安養寺(奈良県田原本町)のご住職で、先ほどの善福寺さんの隣町にお寺があります。
安養寺と住職の松島靖朗さん
貧困にあえぐ人がどこに居るのかわかりにくくなっていると、松島さんは言います。たしかに「子どもの6人に1人が貧困状態」と言われてもあまりピンときません。助けてもらいたくても声をあげにくい風潮が、現代の貧困問題の解決を難しくしているそう。
最近では、一般生活者からのお供えだけではなく、企業からの大量お供えの事例もあるそうです。洋菓子のユーハイムは「バウムクーヘン博覧会」で寄付金を募り、それをもとに1万個のバウムクーヘンをお供えしたとか。ユーハイムにとっては、お寺を通じて子どもたちにバウムクーヘンを食べてもらう機会ができるとともに、「身体のためになるから美味しい」という自社理念を広く世の中に知ってもらえるメリットがあります。一般生活者にとっては寄付金によって困窮家庭を支援できる実感を持つことができ、支援を受ける子どもたちにとっては、美味しいユーハイムのバウムクーヘンを食べる機会に恵まれるという三方よしの仕組みが出来あがっています。お寺へのお供えが中心となって企業活動と社会問題を結びつけた、ソーシャル・マーケティングの好事例と言えるでしょう。
■企業とお寺のタッグが分断社会をつなぐ
日本社会を表現する言葉が「格差社会」から「分断社会」へと変わってきています。分断して助けを必要とする人が見えにくくなっていて、行政やNPOだけで解決するのは難しく、貧困をめぐる社会問題は深刻さの度合いを増しています。そうした状況を受けてか、ビジネスの世界でも「Creating Shared Value:共通価値の創造」という概念が注目されており、持続可能な企業経営のために社会的課題を機会ととらえて、ビジネス化しようという動きも出てきています(大室悦賀『サステイナブル・カンパニー入門』)。
地域のお寺の意欲的な活動によって、ユーハイムの事例のような公共性の高いマーケティング活動を実施する機会が生まれています。松島さん曰く、「現代社会における目を背けたくなるような大きな課題に、ようやくお寺の出番がやってきた」。
お寺の活動は一見地味ですが粘り強く、長期戦には強いものです。こうしたお寺とタッグを組む企業が増えて、さまざまな領域に公共性の高いマーケティング活動が広がり、生活者の意識も変化していくことで、分断社会がつなぎとめられるのかもしれません。