–日経クロストレンド(51)連載–
家の食卓を「写真」で大調査
生活者の「3つの意外な真実」とは
こちらは「日経クロストレンド」からの転載記事です。
ダイエットをしている人は普段、何を食べているのか?博報堂生活総合研究所は、多数の生活者の食卓風景を収集し、分析している。今回は、同研究所の長期時系列調査「生活定点」の定量データと、食卓風景の様子から見える定性データを組み合わせて、生活者の本当の「食」への意識を深掘りしていく。
私たち博報堂生活総合研究所(以下、生活総研)は、「生活者をまるごとみる」という基本スタンスで、生活者研究を行っています。
その姿勢に基づいて、30年以上の生活者観測データ「生活定点」をはじめとする時系列調査の「LONG Data」、生活者のデジタル上の行動/履歴などにひも付いた「BIG Data」、そしてインタビューの生声や写真/観察記録などの定性的な「THICK Data」という「3つのデータ」の収集・分析を通じて、多面的な視点から生活者研究に取り組んでいます。
最近では、「LONG Data」×「THICK Data」の試みとして、「生活定点」の意識データと同じ項目を聴取した写真調査を、データベースとしてまとめたサイト「生活図鑑」をオープン。その第1弾<食>を2024年4月に公開しました。
SNSでは見られないような生活者のリアルな食生活の写真は、眺めているだけでもなかなか面白いです。そこに、シングルソースではないものの、「生活定点」の定量データである食意識と、「生活図鑑」の定性データである同じ食意識を持つ人の実際の食卓の写真を見ることもできるので、生活者の見方がより深くなります。
今回は、「生活定点」×「生活図鑑」から考えられるマーケティングのヒントをいくつかご紹介したいと思います。
生の食卓写真から見えてきた生活者の3つの意外な真実
(1)男性のダイエット=抑制、女性のダイエット=バランス?
「ダイエットを意識した食事をしていますか?」と聞かれて、「はい」と答える人は17.2%と2割ほどいます(博報堂生活総合研究所「生活定点」調査[2022])。
その食事内容について、どんなものを想像しますか。低糖質・高タンパクの食事をしているのか、はたまた夜遅くに食べないように夕食時間を決めているのか、運動でカバーするので自由に食べているのか……。
そもそも食に関しては、関心の高さや調理スキルなどでデータに性差がやや出やすいカテゴリーですが、「ダイエットの実態に性差はあるのか?」という視点で、もう一つの調査データである「生活図鑑」の写真を見てみましょう。
同居家族の影響を受けずに用意しやすい昼食に絞って「ダイエットを意識した食事をしている」と回答した男性の写真を見ると、もちろん全員ではありませんが、単品でややストイックな食事が目に留まります(写真1)。
これに対して、「ダイエットを意識した食事をしている」女性の昼食はどうでしょうか。
一見普通の食卓に思えますが、食事の詳細コメントを読むと、「生野菜と温野菜を意識して食べる」「タンパク質補給のゆで卵」「低脂質でタンパク質や食物繊維の摂取を心がけている」「糖質ゼロ麺に食材トッピング」などのこだわりが垣間見られます。
そして、写真やコメントから共通して単品ではなく、品数や食材の数が多いように見えます(写真2)。
このような食卓風景から何となく「太りそうなものを抑える」抑制型の男性と、「バランスよく栄養を取って過多を防ぐ」バランス型の女性、というダイエットに対する姿勢の違いが感じられるのではないでしょうか。
この抑制型なのかバランス型なのかは、性差に限らず、現在ダイエットプロセスのどこにいるのか、によって異なることかもしれません。
具体的には、今よりも体重を減らしたいと思う減量期には抑制型に、今よりも体重を増やさないようにしたいと思う維持期にはバランス型になるという見方です。
詳しくはさらなる深掘りや定量的な検証が必要かもしれません。ですが、こうしたダイエットの姿勢の違いに着目すると、今後の商品開発やコミュニケーションのアプローチに活用できる可能性はあります。
(2)いまどきの「ファスト」ニーズをかなえる麺ランチ
次に注目したのは、「ファストフードをよく利用する」という意識について。「生活定点」調査では1998年から聴取をしていて、長らく横ばいが続いていましたが、2016年の14.9%から2022年には22.4%になり、+7.5ptの上昇トレンドの項目です(図2)。
今後も伸びていきそうな兆しを見せる「ファストフード好き」は、実際にどんな食事をしているのでしょうか。こちらも、ファストフードが挙がりやすそうな昼食で見てみることにしました。
ファストフードというと、個人的にはハンバーガーや牛丼というイメージが強かったのですが、実際の写真を眺めて気づいたのは、「麺」が多いということ。定量的に見られるほど数は多くないのであくまで参考値ですが、「麺」の件数を数えてみると全部で11/31件(35.5%)という結果になりました。3割以上が「麺」なので、印象にも残りやすいのでしょう(写真3)。(ちなみに「パン」は7/31件の22.6%)。
また、「ファストフード」と聞くと外食を思い浮かべるのではないかと思いますが、外食だけでなく、中食や内食にも様々な麺が登場していました。
麺というのは、つるつると速く食べられるという意味で「ファストフード」なのだと思いますが、コロナ禍以降、在宅ワークができる環境も増え、内食として準備するのも「ファスト」だという面が重宝されていることも推察されます。
また、麺と一口にいってもラーメン、うどん、そばとバラエティーがあります。さらに、ラーメンのような汁のある麺も、焼うどんに見られる汁なし麺もあり、麺のバリエーションは豊かで、頻度高く取り入れやすいことも影響しているのではないでしょうか。
とある一日である今回の食事写真からだけでは分かりませんが、1週間で見ると「麺ローテーション」なるものが発見されるかもしれません。「タイパ(タイムパフォーマンス)」を重視する人が増えている現在、食の「タイパ」に応える「麺ランチ」を絡めたアクションは、生活者を動かす潜在的トリガーになる可能性も考えられます。
→続きは「日経クロストレンド」のページからご覧ください。
<日経クロストレンド「30年のデータで解析! 生活者の変化潮流」>
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