研究レポート

『生活者の平成30年史』出版記念企画 Vol.1

【研究員インタビュー】 女性は本当に「働きやすくなった」のか? ──「女性と仕事」の平成30年史

生活者の平成30年史』出版記念企画のVol.1は女性研究員による対談です。平成は、女性の社会進出が進み、夫婦共働きが当たり前になった時代でした。しかしデータをみると、「働く」という点で男性と女性が完全に平等になったわけではないこともわかります。平成の30年間で「女性と仕事」の何が変わり、何が変わらなかったのか──。
生活総研の十河研究員(写真右)が、博報堂歴35年の夏山主席研究員(写真左)に「女性と仕事の30年」について聞きました。
Vol.0 【著者インタビュー】平成は、平静ではなかった──。 30年間を振り返る書籍に込めた思いとは


バブル崩壊とシンクロする女性の社会進出

十河:夏山さんが博報堂に入社したのは1984年だそうですね。

夏山:元号が平成に変わったのが1989年ですから、その5年ほど前から社会人として働いていることになります。

十河:その頃から現在までで、女性と仕事の関係はどう変わってきたのか。夏山さんの体験談を交えてお聞かせください。

夏山:私は生まれが1964年、入社が1984年なので、ちょうど20歳で働き始めたことになります。つまり、短大卒ということです。当時、女性は四年制大学に行くと就職しづらいと言われていました。NHK放送文化研究所さんが5年ごとに実施されている「日本人の意識」調査で1983年当時の意識を振り返ると、「女の子に受けさせたい教育」のトップは「短大・高専まで」だったことがわかります。私は会社に入って長く働きたいと思っていたので、あえて短大に行って就職する道を選びました。

十河:大卒の女性は、なぜ就職しにくかったのでしょうか。

夏山:20代で退職してしまう女性が多かったからです。この頃、女性が結婚する平均年齢は26歳くらいで、結婚はほぼ退社を意味していました。企業からすれば、できるだけ長く働いてくれる人を採用したいですよね。だから、短大卒のほうが人気だったわけです。

十河:当時の女性会社員は、一般職がほとんどだったのですか。

夏山:そうです。私は博報堂の関西支社に入社したのですが、関西の同期入社の女性7人のうち、大卒の総合職はひとりだけでした。私たち一般職は、入社から数年は伝票処理やお客さまへのお茶出しなどが主な仕事でした。

十河:女性の仕事が変わるきっかけになったのが、1986年に施行された男女雇用機会均等法ですね。

夏山:あれが大きなターニングポイントでした。少しタイムラグはありましたが、博報堂でも数年後に人事制度が大きく変わって、一般職で入社した人に総合職になる機会が与えられるようになりました。この制度ができた頃には、入社時に7人いた女性の同期はもう2人しか残っていませんでしたね。

十河:みなさん結婚退職してしまったのですか。

夏山:そう。まだそういう時代だったんです。私は適性テストを受けて、1993年から総合職のマーケティング・プラナーの仕事をするようになりました。

十河:男女雇用機会均等法によって社会が変わったという実感はありましたか。

夏山:すぐに大きく変わったというわけではなくて、じわじわと変化していったという感じです。興味深いのは、女性の働き方の変化と日本経済の動きがシンクロしていることです。バブル経済のピークは1986年から1989年くらいで、崩壊したのが1991年から1992年くらいというのが一般的な見方ですよね。そして1993年からは、のちに「失われた20年」と言われる時代に入っていったわけです。私が総合職に移ったのがまさにその年でした。データをみると、共働き世帯数が専業主婦世帯数に初めて追いついたのがやはり同じ頃です。

十河:バブル崩壊と同じくらいのタイミングで女性の社会進出が活発になっていったということですね。

夏山:もうひとつ、大きなターニングポイントになったのが、1997年の消費増税と金融危機だったと思っています。この頃から日本経済の先行きに対する不安が高まって、生活者がお金についてかなりシビアに考えるようになってきました。以前、「1997年から1998年頃に日本人の価値観が大きく変わった」という内容の調査レポートをまとめたことがあります。多くの人が「賢く暮らす力を身につけなければならない」と考えるようになったとして、私たちはそれを「賢力(けんりょく)」と名づけました。

十河生活総研が昨年まとめた「家族30年変化」の調査結果をみると、その頃から、夫の平均年収が一貫して下がっていることがわかります。それに対して、妻の年収は一貫して上がっています。夫の手取りが少なくなったので、妻が働かなければならなくなった。そんな側面もありそうです。

社会に出る女性たちに立ちはだかる家事の壁

夏山:その後、1999年に男女共同参画社会基本法が施行されました。雇用機会均等法の施行から10年以上経っても、依然として女性には結婚や出産を機に退職する人やパート・アルバイトで働く人が多かったんです。そこで、女性がもっと働きやすくなる環境を整備しようということで、法律が作られたんでしょうね。

十河:雇用機会均等法以後も働き続ける妻やママ、フルタイムが大きく伸びなかったのはなぜなのでしょうか。

夏山:やはり、家事の主担当が相変わらず女性であったことが大きな要因だと私は考えています。家事・育児をしながら正社員としてフルタイムで働き続けるのは難しいですからね。「家族30年変化」からも、家事の負担がいまだに女性に集中していることが見て取れます。

十河:一方、「夫も家事を分担するほうが良い」と考えている夫は1988年には38.0%しかいなかったのに、2018年には81.7%まで増えています。同じく妻も、60.4%から85.1%に伸びています。育児に関しても傾向は同じで、夫も妻も8割以上が家事を夫婦で分担するのがいいと考えていることがわかります。

夏山:意識の上では分担したほうがいいと考えている人が夫・妻とも多いけれど、実態はそうなっていないということですよね。おそらく、そこには本音と建前のギャップがあるのだと思います。女性が働きやすい社会になってきたとはいえ、夫がメインの稼ぎ手であるという事情は現在もあまり変わっていません。だったら、家事・育児を手伝ってもらうよりも、稼ぐことに注力してもらったほうが家計上は助かる。そんな本音が女性の側にあるのではないでしょうか。

十河:仕事と家事を分業したほうが経済的には安定するということですね。

夏山:もうひとつ、家事・育児に慣れていない夫にそのスキルを身につけさせるのが大変という事情もあると思います。「家事ハラスメント」という言葉があるくらいで、家事ができない夫に妻がイライラして文句を言ってしまう。そんなケースも出てきているようです。

十河:実際、ご家庭を訪問してお話を伺うと、夫に家事を教えるよりも自分でやってしまったほうが早いと考えている女性は少なくないようです。

夏山:日本では「男は仕事、女は家事」という時代が長く続いてきました。それが当たり前だと思っている両親に育てられた男性の多くは、残念ながら、家事のスキルを学ばずに大人になっていると思います。そこが改善されないと、女性の家事負担は軽減しないのではないでしょうか。

日本は管理職に占める女性の割合が世界最低水準

十河:やや意外なのですが、博報堂の生活者調査「生活定点」をみると、「仕事が好き」という女性は一貫して男性より多いんですよね。

夏山:これも日本特有の事情かもしれませんが、「男性はひとつの会社でずっと働く」という終身雇用モデルが長年の間続いてきたわけですよね。同じ会社で働き続けると、特定の人間関係や職場環境に拘束されることになるから、我慢しなければならないことも多い。結果、仕事がストレスになってしまう。そういうことなのではないでしょうか。その点、女性は比較的身軽で、人生のステージに合わせて会社を辞めて専業主婦になったり、再就職したり、転職したりということが男性よりもしやすい。だから男性よりも相対的に我慢することが少なく、仕事が好きでいられる。そんな働き方の違いが背景にあるように思います。

十河:その一方で、女性管理職の割合で日本は先進国中最下位です。「生活定点」では2014年から、「女性が高い地位や管理職につくことをどう思うか」という質問を続けているのですが、男性の6割、女性の7割以上が女性管理職の存在を肯定的に捉えています。にもかかわらず、女性管理職の数は非常に少ない。これをどう考えますか。

夏山:管理職に占める女性の割合は部長相当職で7%くらいですよね。それでも以前から比べるとずいぶん増えているんですよ。私が入社した頃は、部長クラスの女性は関西支社でひとりだけでしたもん。いろいろな企業で女性管理職が増えてきたと実感できるようになったのはこの5、6年かなぁ。私自身も管理職になったのは、つい4年前のことです。
多くの企業で女性が管理職になれる環境がまだまだ整っていないことに加えて、女性自身が管理職になることに躊躇しているケースが少なくない。そう私は考えています。世の中の女性管理職が増えるのはいいことだけれど、実際に自分が管理職になるかどうかは別──。そう考えている女性が多いのではないでしょうか。家事・育児で忙しいのに、そのうえ会社でまで責任を負いたくない。おそらく、そんな本音もあるんだと思います。

十河:企業のなかで出世するよりも、好きな仕事をしてキャリアアップをしていきたいとえている女性も多いように感じます。

夏山:確かに、私の同期入社の人たちのその後を見ても、個人事業主になって好きな仕事をやってイキイキと暮らしている人が何人かいます。

十河:役職にとらわれず、楽しんで仕事をしている。だから「仕事が好き」。そんな人が男性よりも女性に多いということなのかもしれませんね。

男女共同の鍵は、家事・育児に対する常識変革

十河:今後、働き方における男女の差はなくなっていくのでしょうか。

夏山:そこはやはり家事や育児との兼ね合いでしょうね。「家事の主担当は妻」という従来型の常識が変わらない以上、フルタイムで働き続けることや管理職として働くことを選択する女性の数はなかなか増えていかないと思います。

十河:晩婚や高齢出産を選ぶ女性、未婚の女性が増えているのもそこに関係するかもしれませんね。家事や育児の問題は結婚とともに発生するので、結婚や出産は後回しにする。あるいは結婚をあえてしない。そう考えている女性も少なくないと思います。

夏山:女性のライフステージが揃わなくなってきているのもそのためですよね。「第1子出生時の母親年齢の構成比」をみると、1987年はピークの26歳に12.5%が集中。22歳から29歳の8年間に7割以上の人が第1子を出産していました。それが時代とともに出産の適齢期が分散してきて、2017年にはピークの29歳に8.1%しか集中していません。40代になってから第1子を出産する人もいるほどです。

十河:それだけ女性の生き方が多様になって、標準的なモデルがなくなってきているとも言えそうです。

夏山:平成の30年間で大きく変わったのは、まさにそこですよね。女性だけでなく、男性の生き方にも標準と呼べるものがなくなってきています。夫婦のあり方を見ても、亡くなった樹木希林さんと内田裕也さんご夫婦のように、最後まで何十年も別居を続けるという関係が必ずしも奇異なものではなく、「それがお互いに納得のいくスタイルなら問題ない」と感じる人が増えています。樹木さんが亡くなってから出版された著書がすごい勢いで売れていることが、そのひとつの証ではないでしょうか。

十河:『生活者の平成30年史』では、「プロジェクト家族」というキーワードを掲げています。家族がプロジェクト化し、特定の役割が特定の人に集中しないようになり、かつそのプロジェクトを支援するサービスを提供する企業が増えてくると、女性はようやく家事・育児から解放されるようになるのかもしれません。

夏山:家事を合理化できる商品や家事支援サービスなんかも、もっと利用されてもいいですよね。それから、家事はもっと手抜きでもいいと思うんです。掃除は毎日しなくてもいいし、洗濯物は必ずしも天日で干さなくてもいい。家事がそんなふうに、いい意味で曖昧で緩いものになっていけば、女性も楽になるはずです。また、夫の家事が下手でも、妻はそれを責めるのではなく、笑ってしまう。そんな文化が広まれば、ずいぶん風通しのいい世の中になるし、女性も働きやすくなるのではないでしょうか。

十河:家族や夫婦の標準的なモデルはなくなっても、家事・育児に対する「こうすべき」「ああすべき」という常識は、平成の30年間であまり変わらなかったと言えそうです。そのような常識からいったん離れてみることが大事ということですね。

夏山:もちろん、常識がまったくなくなると、それはそれで不便なので、「こういうことはステキだよね」という新常識が生まれるといいのかな、と思います。私たちがやった調査のなかで、「夜中に好きな音楽を聴きながら食器を洗うのが楽しい」とコメントしてくれた男性がいましたよね。負担だと思っていた家事が、やり方によっては楽しくなる。そんな価値観が広まれば、女性も男性ももっとハッピーになれる。そんなふうに思います。

→本の概要や目次はこちらからご覧ください。

<出版記念企画 連載一覧>
Vol.0 【著者インタビュー】平成は、平静ではなかった──。 
Vol.2 【笠原将弘さんインタビュー】 新しい時代の和食の料理人像を作りたかった
Vol.3 【菊池武夫さんインタビュー】 洋服はカルチャーの一部だと思う
Vol.4 【時東ぁみさんインタビュー】いろいろな活動で、たくさんの人を笑顔にしたい

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