「消費潮流の最前線」 第5回
【トキ消費】を生むヒント①
こちらは、東京商工会議所 東商新聞2020年4月10日号からの転載記事です。
夏山研究員による寄稿です。
【トキ消費】とは…同じ志向を持つ人たちと一緒に、その時(トキ)、その場でしか味わえない盛り上がりを楽しむ消費(博報堂生活総合研究所提唱)
【トキ消費】の潮流に乗るために、どのようなビジネスが考えられるでしょうか。今回は具体事例とともに、アイデア発想のヒントをご紹介します。
新しいトキをつくる
皆さまは「愛妻の日」をご存知ですか。「妻を大切にする人が増えると、世界が少し豊かで平和になるかもしれない」という理念のもと、日本愛妻家協会が「アイサイ」の語呂合わせで1月31日を「愛妻の日」と制定。ウェブサイトなどで「妻への感謝を花束に託して贈ろう」「午後8時9分に夫婦でハグをしよう」といった提案をしています。
この事例では、1月31日午後8時9分など時間を限定することで、【トキ消費】の特徴である「非再現性」を高めています。このように日常性からの脱却、言わば「新しい歳時記や旬の開発」という視点を取り入れれば、従来のモノやコトも【トキ消費】へと発展させられるのではないでしょうか。
トキのお題を出す
次は、「顧客参加・拡散型のキャンペーン」事例です。とあるハンバーガーチェーンは、スタッフからの人気は高いものの、売り上げは最下位という商品の「生き残りキャンペーン」を企画。「期間中、この商品が売り上げ8位以内に入らないと販売終了」として、顧客に商品存続のため、買ってもらうよう協力を募りました。また、期間中の売り上げランキングをSNSで随時発表して、顧客の関心を引き付けました。結果、大多数の顧客がその商品を買い、売り上げ8位以内を達成。SNSでの情報拡散にも顧客が貢献したという事例です。
顧客を受け身な存在として扱わず、主体的に動いてもらえるようにあえて「お題を出す」という試みが【トキ消費】の「参加性」「貢献性」に合致。功を奏したといえるでしょう。
【トキ消費】の共通要素のうち、事例の前者は特に「非再現性」、後者は「参加性」「貢献性」が色濃いですが、どちらの事例も【トキ消費】の全ての共通要素を充たしています。こういったことも、新たな【トキ消費】を生むための大切な要件ではないでしょうか。
<東商新聞「消費潮流の最前線」連載一覧>
第1回 定義編――モノ、コトの次の潮流【トキ消費】とは
第2回 事例編――様々な分野に広がる【トキ消費】の共通要素
第3回 背景編――生活者が【トキ消費】に向かう理由とは
第4回 データ編――生活者調査でみる【トキ消費】
第6回 ビジネス編②――【トキ消費】を生むヒント②