–日経クロストレンド(67)連載–
“若者の恋愛離れ”の正体 調査で見えた恋愛至上主義世代との意識差
こちらは「日経クロストレンド」からの転載記事です。
“若者の○○離れ”が叫ばれる中で、よく挙げられるのが“恋愛離れ”だ。本当に若者は恋愛から離れているのか。今回は、博報堂生活総合研究所の酒井崇匡氏が、金沢大学融合研究域教授の金間大介氏との共著『仕事に「生きがい」はいりません 30年の調査データが明かすZ世代のリアル』の内容を基に、若者の恋愛離れの真偽と本質、さらには恋愛における世代間の溝について解説する。

若者の恋愛事情をデータからひもとく(画像/Rudzhan/stock.adobe.com)
そもそも、昔の若者は恋人がいたのか?
「今の若者は恋愛離れしている」という言説は、2010年前後から様々な場所で語られてきました。今ではすっかり若者像を語る上での前提となった感すらあり、データを見てみると確かに異性との交際率などは以前に比べ低下傾向となっています。
ただ、「今の若者は恋愛離れしている」と聞くと、その裏返しとして何となく「上の世代は若い頃、みんな恋人がいたんだ」と思い込みがちです。果たしてそれは正しいのでしょうか?
国立社会保障・人口問題研究所が約5年おきに実施している「出生動向基本調査」では、1987年の第9回調査以降、18~34歳の未婚男女に対して現在の異性との交際状況を聴取しています。

国立社会保障・人口問題研究所「出生動向基本調査」より作成

国立社会保障・人口問題研究所「出生動向基本調査」より作成
男女別の結果を見てみると、最新の調査年である21年調査の「恋人として交際している異性または婚約者がいる率」は男性で21.1%でした。ピークは05年調査の27.2%なので、確かに恋人/婚約者のいる率は漸減しているように見えます。
女性も、ピークは02年調査の37.0%、それが21年調査では27.8%まで減少しているので傾向としては同様です。
ただし、裏を返せば男女ともにピーク時であっても18~34歳未婚者の6~7割は恋人や婚約者がいなかった、ということでもあります。
上の世代はみんな恋人がいた、というのは誤りで、そんな人は2000年代前半のピーク時でもだいたい3人に1人程度が関の山、7割くらいの人は恋人がいなかったのです。さらに言えば、1987年調査の男性の恋人/婚約者のいる率は22.3%で、2021年調査の21.1%とほとんど差がありません。
こうしたデータを踏まえると、「若者の恋愛離れ」という言説の背景にある、「昔の若者は恋人がいて当たり前だった」という大前提に重大な疑義が生じます。今の若者の多くに交際している恋人がいないことを根拠に「恋愛離れ」しているというのなら、1980年代の若者も大して変わらない状態だったわけです。
87年時点の調査対象者は現在の50代後半~60代の人が中心ですが、少なくともその世代の男性陣が「俺たちが若い頃は女の子をこうやって口説いたもんだ……」みたいな自慢(?)話を今の若者にする資格はあまりなさそうです。
“恋愛離れ”というより、“友達以上恋人未満”離れ
一方で1980~1990年代は一定のボリュームを占めていたのに、その後、激減している項目があります。グラフ上では「恋人/婚約者のいる」のすぐ上にある、「友人として交際している異性がいる」という項目です。
男性では87年段階では23.6%もいましたが、2021年には4.7%と大幅に減少。女性でも25.4%から6.0%までほぼ同様に減少しています。
しかし、そもそも「友人として交際している」というのは一体どのような状態のことなのでしょうか。この出生動向基本調査では一貫して恋愛観や結婚観について聴取されており、異性との同居や性交渉の経験などを深掘りする設問の後に、現在の交際状況を聴取するこの設問が続いています。
また、前述の「恋人として交際している異性」だけでなく、「友人として交際している異性」がいると回答した場合にも、その人と結婚したいと思っているかどうか追加で回答する流れになっています。
それらを踏まえると、この「友人として交際」はただの友人と捉えるべきではありません。恋愛対象になり得る異性と交際している、もっと具体的にいえば「恋人ではないもののデートはしている相手」、つまり「友達以上恋人未満」くらいに考えてよいでしょう。
昔の若者は今の若者に比べて多くの人が「しっかりした恋人がいた」というわけではなく、「恋人ではないがデートする異性はいた」という人が多かったということです。ちなみにバブル期の1990年代初頭には、車で送ってくれたり食事をごちそうしてくれたりする男性を指す「アッシー君」「メッシー君」という言葉も登場しています。
そのような上の世代で一定数存在した「友達以上恋人未満」という関係の是非はともかくとして、今の若者にはあまり見られない状態であることは確かです。今の若者は付き合ってもいないのに無理にデートする相手をつくったり、求めたりしないだけ、と見ることもできるでしょう。
今の若者が変なのか? 上の世代が変なのか?
日本性教育協会は、1974年からほぼ6年おきに全国の大学生、高校生、中学生を対象として「青少年の性行動全国調査」を行っています。大学生、高校生、中学生における性交経験率について、まず大学生女子の推移に注目してみましょう。

日本性教育協会「第9回 青少年の性行動全国調査」(2023)より作成
大学生女子の性交経験率は74年調査から一貫して上昇し、99年調査で過半数を突破、2005年調査で先行していた男子に追いつき60.1%まで高まりました。ただし、そこをピークに下落に転じ、11年調査では47.0%と再び半数割れしました。それ以降は17年の41.7%、23年の43.8%と比較的安定して推移しています。
一方の大学生男子を見ると、ピークは女子よりも早い1999年調査の63.0%で、最新の2023年調査でも53.7%と過半数を維持しているなど多少の違いはあるものの、大きな傾向では女子とそれほど変わりません。
高校生ではどうでしょうか。男子・女子ともにピークが05年調査である点は大学生女子と共通しており、このときの性交経験率は男子26.8%、女子30.3%と女子が男子を上回っていました。それ以降は男女ともに一貫して減少し、23年調査では男子12.0%、女子14.8%となりました。
興味深いことに、大学生男女・高校生男女ともに23年調査時点から左に線を伸ばしていくと、おおむね1993年時点と同程度の水準であることが分かります。
このデータは次の2つのことを示唆しています。
一つは「現在の若者が完全に性愛離れしているかというと、そうでもない」ということ。性交経験率はピークアウトしているとはいえ1990年代初頭と変わらない水準で減少に歯止めがかかっています。若者の性愛に対する興味はどんどん薄れてなくなってしまうのではないか、という心配はそんなに必要なさそうです。
そしてもう一つの示唆は、「1990~2000年代の若者は戦後の歴史の中でもかなり性行動が活発だった」ということです。特に大学生女子や高校生男女の推移を見ると、1990年代半ばから2000年代半ばにかけての性交経験率はその他の時点に比べても高い水準となっています。この期間は戦後の歴史の中でも若者の性的な奔放さが増した時代だったわけです。
確かに今の若者は当時に比べて恋愛に熱心ではなくなっているかもしれませんが、より長期的な視点に立つと、実は変わった存在だったのは当時の若者の方、現在は30代後半から50代前半になっている世代なのかもしれません。
→続きは「日経クロストレンド」のページからご覧ください。
<日経クロストレンド「30年のデータで解析! 生活者の変化潮流」>
◇過去の「私の生活定点」連載はこちら
◇「その他研究活動」連載はこちら↓
第40回ーー「全年齢層で共通して歌われる曲」は10年間で5倍に増加
第42回ーー年齢に代わる「2つのモノサシ」を発見 「消齢化」最新研究
第44回ーー広告から見た「消齢化」の現実と疑問気鋭コピーライターの視点
第45回ーー「ひとり好き社会」に向かう日本20~30代は7割、40~50代は?
第46回ーー消費・市場を変える新キーワード「ひとりマグマ」のポテンシャル
第49回ーー消齢化・多様化時代のブランディングとは 20代起業家の視点
第53回ーー「逆おさがり」って何?ファッション“生写真”調査で見えた3つの変化
第54回ーーZ世代の親との関係性が30年で激変 「メンター・ママ」って何?
第56回ーーZ世代が求める「ローリスク仲間」強まる同性の友人との関係
第57回ーー生活の「デジタル/アナログ比率」を大公開 アバター経験率は3割弱
第58回ーー“40代おじさん”は「イヤな人」から「取っつきづらい人」へ 最新調査で判明
第61回ーー新商品に飛びつくのは41歳9カ月まで?調査で判明した「生活寿命」
第62回ーー若者が使う「ネオダジャレ」の実態 ジョイマン高木さんインタビュー
第63回ーーソト機能のイエナカ化、隙間テレワーク…生活者の部屋を写真でのぞき見
第65回ーーデジタル世代の若者にアナログ志向が増加 購買行動の定番化に2つの要因
第66回ーータイパ社会へのカウンター? 脱・予定調和で“ムダ”を求める生活者