2026.08.18

–日経クロストレンド(73)連載–

承認欲求と拒否回避の両立を望む若者 仕事観と消費で中高年と大きな差

生活総研 グループマネージャー/主席研究員

酒井 崇匡

「日経クロストレンド」の連載記事です。

若者とミドルエイジの価値観の違いはなぜ生まれるのか――。『仕事に「生きがい」はいりません 30年の調査データが明かすZ世代のリアル』を2025年に出版した博報堂生活総合研究所・酒井崇匡研究員が、共著者の金間大介氏(金沢大学教授、北海道医療大学客員教授)と共に、Z世代を取り巻く環境と、そこから見える仕事への向き合い方と消費の形について解説していく。

          (画像/primipil/stock.adobe.com)

「生きがい」も「つらみ」も仕事では感じたくない

博報堂生活総合研究所・酒井崇匡(以下、酒井) 主に「仕事」と「消費」という2つの観点から、共著の出版以降に互いが進めてきた考察も含めて議論していきたいと思います。まずは私たちの本のタイトルにもなっている、「若者が仕事に生きがいを見いださなくなっている」現象について。

本の中でも紹介した内閣府の調査による「働く目的」の時系列変化を見ると、「お金を得るため」という回答が2013年ごろから上昇して23年には64.5%にもなっています。

その分、01年には24.4%あった「生きがいを見つけるため」という回答が、23年には12.8%にまで減少しています。このデータからも、仕事は「生きがい」ではなく、あくまで「生きていくための手段」という考え方が市民権を得てきたと感じます。

     出所:内閣府 「国民生活に関する世論調査」から作成

金沢大学教授・金間大介氏(以下、金間) その傾向はますます進んでいて、若者の間では普通の考え方になってきています。仕事の価値観では、40代後半より上の年代と20代との一番のギャップといっていいのではないでしょうか。

上の世代の人たちも仕事が大好きなわけではないですが、「ほとんどの時間を費やすんだから、少しは楽しみがないともたない」と消極的ながらも生きがいを見いだそうとする意識が強い。対して、若者にとって仕事のスイッチは、始業と同時に入れて、タイムカードを切った瞬間にオフにするものだという感覚が強い。そこに大きな乖離(かいり)があります。

そもそも上の世代は仕事がつらいので、仕事の中にもそれを帳消しにするようなご褒美がないと頑張れない。しかし今の20代は働きやすく、職場の環境も改善していて、仕事が苦だと以前よりは感じにくい。この認識の違いが価値観の違いの背景になっていると思います。

「生きがい」を感情の揺れのプラス軸側とした時に、マイナス軸側になる「つらみ」にも着目して棒グラフにすると、生きがいとつらみが表裏で均等になるイメージを僕は持っています。

酒井 生きがいとつらみでバランスを取っているんですね。

金間 そういう仕事における「感情の揺らぎの棒グラフ」の絶対値が、今の若者は上の世代の10分の1くらいになっていて、仕事の中で感情の揺らぐことそのものへの拒絶が大きい。なのでマイナスだけでなくプラスも減らす。波を小さくして、緩やかな凪(なぎ)の状態を保とうとしているんです。

酒井 私たち博報堂生活総合研究所は26年2月に、まさに感情面の揺らぎをなくしていこうとする生活者の動向について注目した「感情ミュート社会」という研究発表を行っています。この研究の中でも、若年層で感情の表出を抑える意識が特に高いことが分かりました。

感情の振れ幅の縮小は突然起こったことではなく、マクロな構造変化で言えば、自営業者、第一次、第二次産業従事者が減り、第三次産業に従事する都市部の勤め人が戦後、大幅に増加してきました。自営業では大きかった収入の揺らぎがなくなり、都市に多くの人が集住し、かつ第三次産業、対人の仕事をするようになった。

要するに、感情の振れ幅が少ないほうが生きやすくなった、ということです。その状態で世代が進み、仕事だけでなく家庭でも友人関係でも感情の振れを抑えるようになったと。

金間 何十年にわたる大きなトレンドに、このタイミングで博報堂生活総研が注目したのはなぜですか?

酒井 近年、特にハラスメント防止などの観点で激しい感情を出すことが控えられるようになってきたこともありますが、一方で逆サイドの動きへの着目もありました。口論やけんかなど強い感情にあえて触れるコンテンツが若者を中心に人気になっているんです。普段出せる感情の振れ幅がなくなり過ぎたことで、安全な状態で、娯楽として感情を楽しもうとしている面もありますね。

仕事の価値観に話を戻すと、仕事にやりがいを見いだす若者が絶滅したわけではもちろんなく、上の世代より少ないながらも10人に1人ぐらいはいる感覚です。

金間 そうですね。今の40~50代が新人だった時もアントレプレナー気質の人が特段多かったわけではありませんが、既存企業でも職場の同期に「出世してやろう」というタイプの人が10人に1人ぐらいはいました。

でも今は、その10人に1人が初めからスタートアップに行く傾向が強く、より界隈(かいわい)が分かれてしまっている。これは時代の大きな違いです。

酒井 そうなると、既存企業では新入社員が誰も仕事に生きがいを求めなくなるのでしょうか。それとも若者の間でもモチベーションにはグラデーションがあるのでしょうか。

金間 グラデーションがあると思います。そしてそれは、企業にとって光明です。

僕は若者の分類として、1割はスタートアップに行くような自己実現系で、3割が中間層、残りは「無敵化」している層などだと捉えています。3割の中間層は既存企業に就職して、初めは仕事に生きがいを求めないながらも「一生このままでいいのかな?」「先輩は仕事が楽しそうで、ちょっとうらやましいな」とも思っている。彼らのモチベーションをどうくすぐり、引き上げるかは先輩社員の振る舞いにかかっています。

共著の『仕事に「生きがい」はいりません』(SB新書)

仕事に生きがいを見いださない若者の「未来」

酒井 労働環境が以前に比べて改善されたことで仕事のやりがいも減ったとすると、今の若い年代の年次が上がり、仕事の中で責任を負うようになった時にはどうなるとお考えですか。

金間 僕は、今の若い年代は、仕事における感情の振れ幅が凪なままミドル~シニアになっていくと確信しています。ロックが好きな世代はおじいちゃんになってもロックが好きなように、世代の価値観が成人後に大幅に変わることは基本的にないからです。

だから社会システムのほうが感情の凪に合わせて変容していく。スタートアップでは依然として「絶対コンペに勝つぞ!」みたいなノリもあるでしょうが、既存企業の中では競争がなくなっていく。企業間の競争入札も落ち着いていくでしょうし、社内の出世競争もなくなって、ある年次になると全員部長になるような仕組みになると僕は予想しています。

酒井 「凪対応型」の社会になっていくのは私も同感です。一方で、それで海外とのビジネスでも通用するかとか、新しい市場を開拓できるのか、というとかなり疑問もあります。ですから「プロ・アントレプレナー」のような属性が出現すると予想しています。

出世競争に関しては、一部の野心的な人間が経営陣を担いつつ、それ以外の人たちは、例えばある年次になると輪番制で1年ごとに管理職を経験するような仕組みも出てくるのではないでしょうか。

金間 内側だけ見ると競争はなくなるでしょうが、おっしゃるとおり国際競争や企業の成長の文脈をこの議論に持ち込むと一気に不安になりますよね。それでは20年後に会社が潰れてしまう。ですから僕も、既存企業では20年に1回だけプロ・アントレプレナーのような人が成長をけん引するようになる、というイメージを持っています。

関連して最近「静かな解雇」という現象に注目しています。いつまでも売り手市場ではなく、今年辺りからZ世代の採用を絞る会社が出てくる兆候がある。手が掛かるわりに会社への貢献が期待しにくいと考え、採用を絞るような企業も出てくるでしょう。

酒井 日経ビジネスとリクルートマネジメントソリューションズが実施した「企業の新卒採用実態調査2026」では、新卒採用メインでなく即戦力となるキャリア採用の比重を高めようとする企業の意向が明らかになっています。そもそも若者の人口が減っているので、新卒採用人数を減らさないと、従来と同じ質は担保できない、という人事部の悲鳴も聞こえてくるようです。

金間 生成AIの発展ともたまたま重なっていますよね。特にホワイトカラーでは、下調べや議事録づくりのようなこれまで20代に任せていたような仕事がAIで淘汰されるから、若手の数が以前ほど必要でなくなっている。若手を見る立場の30代は特に実感していると思います。

AIによる淘汰が本格的に顕在化した時、Z世代はどうリアクションするでしょうか。さすがに感情の凪を捨てて自己鍛錬側に行くのか、それでも凪を死守した上で企業との接点を何とか見つけていくのか。

酒井 微妙なところですね。これから2030年ごろまでは大卒者の数は安定しますから、企業がどれだけ新卒採用を絞るかによりそうです。

金間 感情が凪でいられるという理由で志望されるケースの多い書類作成系の事務職こそがAIによって削られ、競争になる。安定は与えられるものではなく、勝ち取らないと得られないことに若者たちが気づいた時、どうリアクションするのか。海外ではもう1回ブルーカラーに振っていくトレンドが見えていて、電気工事や配管といった「手に職」系の資格や仕事に人気が集まりつつあります。日本でも同じことが起こるのか、注目ですね。

 

この記事をシェアする

このエントリーをはてなブックマークに追加
メディア掲載

短歌、ミーム、AIの活用
「感情ミュート社会」で生まれる新しい感情の扱い方

2026.06.25
メディア掲載

胃もたれを自認し始めるのは30代?
調査で分かった食の「生活元年」

2026.06.24
コラム/レポート

講演資料を⼀般公開
「⽣活者発想で追う、⾷⽣活の3⼤潮流」

2026.06.10
メディア掲載

人の「幸せ」を写真でのぞき見
家族ありでも“ひとり”の隙間探す

2026.05.21
メディア掲載

なぜ私たちは感情を出さなくなったのか? 「感情ミュート社会」が進む3つの背景

2026.05.13
メディア掲載

博報堂の強さは伝統のKJ法とデコンの合わせ技 異変察知能力を磨く研修

2026.05.11
メディア掲載

“他人の喧嘩”で感情不足を補給 「感情ミュート社会」が生む3つの新欲求

2026.04.21
メディア掲載

「感情ミュート社会」とは? 自ら感情を出さない新常識

2026.03.25
メディア掲載

「場所がない」は思い込み? 生活者の驚きの空間活用術3選

2026.03.23
メディア掲載

「感情ミュート社会」突入 気持ちを出す機会も相手も「減った」が多数

2026.03.19
コラム/レポート

「幸せをつくるのは、お金だけじゃない」機械学習×生活定点で読み解く、幸福の方程式

2026.03.19
メディア掲載

「43.2歳からおばさん」が調査で判明 激変する令和の「おば」像

2026.03.10

もっと読み込む

その他の研究をキーワードから探す