私の生活定点

博報堂生活総研による定点調査「生活定点」を見て気づいたこと、
発見したことをさまざまな人が語っていくリレー・エッセイです。

「調理済み食品を使う料理」に
賛成9割。内食と中食の中間に勝機
–日経クロストレンド 連載㊶–

生活総研 主席研究員

夏山 明美

こちらは「日経クロストレンド」からの転載記事です。

日本の「食」シーンに大きな変化のときが訪れている。博報堂生活総合研究所の長期時系列調査「生活定点」を詳しく見ていくと、「料理を作ることが好きな方だ」が減る一方で、「調理済み食品をよく使う方だ」が増加傾向にあるという。料理は「作る」から「使う」時代へ――。コロナ禍をへた「食」「食卓」の変化について、博報堂の研究員が切り込む。

●「調理済み食品をよく使う方だ」「料理を作ることが好きな方だ」の回答率の推移

博報堂生活総合研究所の長期時系列調査「生活定点」を分析すると、暮らしや意識の分岐点が見える場合があります。例えば、1998年の質問開始時、「料理を作ることが好きな方だ(37.8%)」は「調理済み食品(レトルト、冷凍食品、総菜など)をよく使う方だ(21.0%)」を大きく上回っていました。

しかし、その後、「料理を作ることが好きな方だ」が減る一方で、「調理済み食品をよく使う方だ」に増加傾向が見られます。世の中に共働きや単身者、高齢者など、料理を負担に感じる人が増えたことも、この変化の背景にはあるのでしょう。

そして、2020年にはついに「調理済み食品をよく使う方だ(32.4%)」が0.4ptと僅差ながらも「料理を作ることが好きな方だ(32.0%)」を上回ります。20年を振り返ると、コロナ禍が深刻化し、生活者の巣ごもり時間や家での食事頻度が増えた時期です。食を取り巻く環境も、来店客の減少で苦戦する飲食店がテイクアウトを始め、技術進歩も相まって冷凍自販機が街中に増え、スーパーやコンビニのお弁当やお総菜に人気が集まるなど大きく変わっていきました。

さらに、まだ予断を許さぬコロナ禍の22年調査において、「料理を作ることが好きな方だ」は31.6%、「調理済み食品をよく使う方だ」は34.3%でその差は2.7ptに開き、かつての上下関係は完全に逆転しました。料理は「作る」から「使う」へ。本稿では、この潮流に関する独自調査の分析結果を基に、生活者の内なる意識や読者の皆さまへのビジネスヒントを解説していきます。

老若男女を問わず、調理済み食品へと向かう

「調理済み食品(レトルト、冷凍食品、総菜など)をよく使う方だ」の躍進について詳しく分析すると、いくつもの発見がありました。最も興味深かったのは、1998年の質問開始時から最新2022年調査にかけて、各年代の差が徐々に小さくなっていることです。

博報堂生活総合研究所では、生活者の意識や好み、価値観などについて、年代/年齢による違いが小さくなる現象のことを「消齢化」と名付けて調査研究を続けています。日経クロストレンドの特集「進む『消齢化』 世代マーケの限界」で既にご存じの読者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。様々な領域で起きている「消齢化」ですが、食においては「調理済み食品をよく使う方だ」で顕著な消齢化が見られたというわけです。

▼関連リンク
消齢化のポータルサイト「消齢化lab.」

●「調理済み食品をよく使う方だ」の回答率の推移(年代別)

また、「調理済み食品をよく使う方だ」の割合が、40代を除く全ての年代で過去最高を記録した点にも注目です。40代以外と書きましたが、40代の割合も過去2番目の高水準(40代:22年32.4%、20年34.7%、2.3pt差)ではあります。さらに、女性も22年に38.5%で過去最高を更新。男性も過去2番目の高水準(男性:22年30.1%、20年30.7%、0.6pt差)となっています。調理済み食品へと向かう潮流は老若男女を問わず、日本の生活者全体に関わるものであることが分かりました。

調理済み食品を「使う料理」に賛成が9割

20年8月、Twitter上で冷凍餃子に関する論争が起こりました。きっかけとなったのは、ある女性が冷凍餃子を夕飯に出したところ、夫に「手抜き」と言われたというツイート。この発言の根っこにあるのは、おそらく料理に対する手作り信仰なのでしょう。そして、このツイートに対して様々な同情や反論が寄せられました。

冷凍餃子の大手である味の素冷凍食品(東京・中央)の公式アカウントも「冷凍餃子を使うことは『手抜き』ではなく『手“間”抜き』です」と投稿。調理済み食品は手抜きなのか、手間抜きなのか……といった論点が話題となったのです。

あれから数年、「調理済み食品をよく使う方だ」という人が増えるなか、生活者の調理済み食品に対する認識はどうなっているのでしょう。博報堂生活総合研究所「食に関する生活者調査」(首都圏・阪神圏・名古屋圏/20~69歳男女1500人/インターネット調査/2023年2・3月実施)により、生活者の内なる思いを定量データで明らかにしてみました。

まずは、調理済み食品に対する賛否について。調理済み食品は、買ってきたものをそのまま食べる場合もあれば、ひと手間かけて料理に使う場合もあると思います。そこで、調査票上では、市販のお総菜やお弁当などを買ってそのまま食べる「買う料理」、市販のレトルトや冷凍食品、お総菜などの調理済み食品を料理に使う「使う料理」に分けて賛否を問うてみました。さらに、これらの調理済み食品と比較するため、肉や野菜などの食材を使い、一から手作りする「作る料理」についても聴取しました。

・「買う料理」……市販のお総菜やお弁当などを買ってそのまま食べる
(例:スーパーやコンビニなどで買ってきた天丼)
・「使う料理」……市販のレトルトや冷凍食品、お総菜などの調理済み食品を料理に使う
(例:市販の天ぷらとめんつゆ、家で炊いたごはんを使って作った天丼)
・「作る料理」……肉や魚、野菜などの食材を使い、一から手作りする
(例:ごはんを炊く、天ぷらを揚げる、たれを作るなど、全てが手作りの天丼)

結果は賛成が多い順に「作る料理(61.3%)」「使う料理(51.4%)」「買う料理(38.9%)」で、「作る料理」と「使う料理」がともに半数を超える結果となりました。さらに、やや賛成を加えた合計である賛成計だと、「作る料理(92.1%)」「使う料理(90.8%)」がともに9割でスコア差も僅か1.3ptという結果になっています。

一方、「買う料理」は賛成計が78.8%で「作る料理」「使う料理」を10pt以上も下回ります。調理済み食品にひと手間かける「使う料理」は「作る料理」と遜色なく受け入れることができるけれど、全く手をかけない「買う料理」には賛成しかねる。そんな生活者の姿が浮かび上がってきました。

また、「使う料理」に賛成する理由(自由回答)では、「市販のものを使ったとしても、ひと手間加えたら家庭の味になる(48歳女性)」「一から作ると時間かかるから少し手間を加えるだけでも十分(24歳男性)」「時短にもなり、合理的(39歳女性)」などが挙がります。一から手作りせずとも、調理済み食品を使ってひと手間かければ立派な家庭料理、時短にもなり、合理的でもある。生活者は、そう認識していることが分かりました。

→続きは日経クロストレンドのページからご覧ください。

 

<日経クロストレンド「30年のデータで解析! 生活者の変化潮流」>
第30回ーー“40代おじさん”の意識はどう変わった? 20年前のおじさんと比較
第31回ーー新旧“40代おじさん”比較第2弾 20年間で仕事愛が激変!?
第32回ーーバブル期の20代と令和の20代、何が違う? 男女の壁が“消滅”
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第37回ーー30年データで突き止めた新ワード「消齢化」消えゆく年代の壁
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