2026.09.03

–日経クロストレンド(75)連載–

「おば」の推し活は“恩活” 若者とは異なる「恩返し消費」の実態

生活総研 上級研究員

近藤 裕香

「日経クロストレンド」の連載記事です。

40代・50代女性の「推し活」には、実は若者とは異なる動機や行動があることが博報堂生活総合研究所の調査から見えてきた。当事者ともいえる46歳の女性研究員による“おばさん分析”の第2弾は、「推し活」の意識と実態に迫る。企業はこの熱量にどう応えるべきか――。

2026年1月29日の「おば」研究の第1弾記事では、「おば」像のアップデートについてお伝えしました。40代・50代の大人世代の女性を、私たちは親しみと敬意を込めて“おば”と呼んでいます(ちなみに筆者も46歳、おば世代ど真ん中です)。

令和の「おば」像は、かつての画一的なイメージから脱却し、マルチタスクでアクティブな存在へと変貌を遂げていました。家庭や職場での役割をこなしながら、自身の人生も欲張りに楽しむ。そんな彼女たちのタフでしなやかな生き方に、読者の皆さんからも多くの反響をいただきました。


今回は、「おば」研究の第2弾として、今や3.8兆円に達する推し活市場(出所:野村総合研究所、2025年)における、彼女たちの実態や欲求について深掘りしていきます。

すっかり社会に浸透した「推し活」は、若者が中心と思われがちですが、野村総合研究所の推計によると国民の3割超が何らかの推し活をしており、その実施層は2600万人に上ります。さらに、40代以上で推し活をしている人も約1200万人に達しているというのです。

私たちの最新調査(2026年3月実施)から見えてきたのは、若者に負けない「おば」の推し活への熱量の高さと、単なる「好き」や「はやり」という言葉でくくれない、「推しへの恩返し」という独自のモチベーションでした。

おば世代の「推し活」は、実は「恩活」だったのです。

ここでいう「恩活」とは、推しから受けた数々の恩恵に対する感謝を、継続的な応援や消費を通じて推しに返そうとする行為です。

本稿では、調査結果から見えてきた「おば」の推し活の実態とその裏にある欲求や熱源をつまびらかにし、そこから広がるビジネスチャンスを明らかにしていきます。

若者に引けを取らない、おば世代の推し活熱量

まず注目すべきは、推し活の継続意向です。

20~69歳男女の「推し活経験者」1133人のなかで「今後も推し活を続けたい」と答えた人は、40代女性で84.8%と全年代でトップ。50代女性も77.9%となっており、20代女性(79.3%)と同水準です。おば世代の推し活への熱量が若者と同等、あるいはそれ以上に高いことがうかがえます(図1)。

 【図1】

では、なぜ彼女たちの熱量は長続きするのでしょう。彼女たちが「推し活にハマったきっかけ」や「推している対象」から、その答えが見えてきました。

おば世代は「線」、20代女性は「点」で推し活にハマる

おば世代の特徴(1) 推しの「積み重ね」にハマる

おば世代の回答で目立ったのは、推しのビジュアルやパフォーマンスだけでなく、その裏側にある「絶え間ない努力」や「人間性」、プロフェッショナルとしての「本物感」に触れることで推しの沼にハマっていく傾向でした(図2)。

 【図2】

ここで重要なのは、単に「推しのバックストーリーに感動してハマった」ということではありません。おば世代は、推しが歩んできた時間や積み重ねに、自分自身の人生経験を重ねているように見えるのです。

彼女たちは、仕事、家事育児、介護や人間関係など、人生の様々な局面で努力や苦労を重ねてきて今があります。だからこそ、推しの裏側にある努力や苦労、そこに裏打ちされたキャリアに対して強い価値と共鳴を感じるのかもしれません。推しの物語に、自分の人生を重ねる。そこに、おば世代ならではの推し活の深さがあるのです。

おば世代の特徴(2) 「推し直し」でハマる

もうひとつの特徴は、自身のライフステージの変化や推しの再結成などを機に「推し直し」するパターンです。子育てや仕事に追われて一度は封印していた情熱が、経済的な余裕や自分の時間を取り戻したことで再燃し、「大人買い」や「全国遠征」といった形で表れています(図3)。

【図3】

この「推し直し」はリバイバルや懐古趣味にとどまりません。若い頃はお金がなくて買えなかったグッズを今なら大人買いできる。遠征なんて夢だったけれど、今なら全国のライブに参戦できる。当時は理解できなかった歌詞や言葉の深さが、今の自分には染みる……。「推し直し」とは、忙しい日々のなかで置いてきてしまった「自分らしさ」を、推し活を通じて取り戻しているように感じられます。

こうした人生経験との重なりや、自分らしさを取り戻すような体験が、後に述べる「推しへの恩返し」という、おば世代特有の推し活スタイルの土壌を育んでいると考えられます。

一方、20代女性の推し活にハマったきっかけを見ると、SNSや動画で偶然目にした「かっこよさ」「かわいさ」「面白さ」などから一目ぼれしたり、友人間で「みんな推してるから」と同調したりと、瞬間的な接点を機にハマる傾向がありそうです(図4)。

 【図4】

もちろん、20代女性の推し活が表層的であるということではありません。若い人たちも推しの努力や人間性を知り、より深く推すようになることは多いはずです。

ただ、ハマる入り口に着目すると、20代女性はSNSや友人関係などの「瞬間の接点」がきっかけになりやすい特徴があるということです。

推し活にハマるきっかけは、20代が「点(その瞬間の輝き)」だとするならば、おば世代は「線(これまでの人生の蓄積)」という大きな違いがありそうです。そしてこの違いが、おば世代の推し活の高い熱量や持続性につながっているのかもしれません。

 

おば世代の特徴(3) 「長年活動を続けるミュージシャン」推し

続いて、「推し活の対象」について、年代別のランキングTOP5を見ると、「アイドル」や「芸能人・著名人」「キャラクター」は、20代、40代、50代女性のいずれでもランクインしています。

ここで注目したいのは、「ミュージシャン」が50代女性で1位(37.2%)、40代女性で2位(28.0%)と、上位にランクインしている点です。20代女性でも5位(16.1%)に入っていますが、40代・50代女性の方がずいぶんと高いことが分かります。

「ミュージシャン」で挙げられた、自由回答での具体的な推しの内容を見ると、長年第一線で活躍する歌手やグループが非常に多いのが特徴的でした。前述の通り、おば世代は推しの「積み重ね」や自分の「推し直し」でハマり、その後も長く推し続ける傾向があるようです(図5)。

 【図5】

おばの推し活は、「推しへの恩返し」が熱源に

今回の調査で最も興味深かったのは、40代・50代女性が推し活を続ける理由として「推しへの恩返し」という感覚を持っていることでした。これは他の年代には見られない、おば世代特有の傾向だったのです。

まずは、象徴的な自由回答をいくつかご紹介します(図6)。

 【図6】

彼女たちにとって、推し活は自分を救ってくれた、前を向かせてくれたことへの感謝の表明であり、支援であり、恩返しなのです。

おば世代の推し活は「恩返し」、20代女性は「自己拡張」

「推し活の価値」についてのデータを見ると、おば世代の推し活の価値は「明日への活力や癒やし」に集約されています(図7)。

 【図7】

 

推し活の価値は「活力や元気の源」と答えた人は、40代女性で94.9%、50代女性では95.9%と、20代女性(85.1%)より約10pt高くなっています。また「癒やしや心の支え」と答えた人も同様の傾向で、20代女性でも85.6%と充分高いのですが、40代女性は92.0%、50代女性では93.8%と、おば世代は9割を超えています。

彼女たちは、推しから忙しい日々を生き抜くためのパワーや癒やしを受け取っており、そのことが推し活の価値だと感じている人が若年女性よりも多いことが分かります。

一方で、20代女性にとっての推し活の価値は少し異なります。「自分が好きなことを周囲に表明できる(78.7%)」「知識や経験を深められる(77.6%)」「普段とは違う自分になれる(69.5%)」などが40代・50代女性より高くなっています。また、「交流を広げられる(64.9%)」「交流を深められる(63.2%)」も同様です。

20代女性にとって推し活は、自己表現や自己成長、仲間とのつながりを広げる機会としての側面が強いようです。

つまり、20代の推し活が「これからの自分を広げる活動」だとすれば、おば世代の推し活は「これまで支えてくれた推しに返していく活動」といえそうです。

若者にも自分の可能性を広げてくれたことへの感謝の念はあるでしょう。しかし20代の「これから」と、おば世代の「これまで」という感謝する対象の時間軸の違いが、おば世代ならではの「恩返し消費」を生み出していると考えられます。

40代は「救われた恩」、50代は「人生を彩ってくれた恩」

では、おば世代が「恩返しをしたい」と感じているのは具体的にどのような理由なのか、もう少し深掘りしてみましょう。

「推し活をしていて良かったこと」に関する自由回答からその一端が浮かび上がってきます。同じ「恩返し」でも、40代と50代では少しニュアンスが異なっています。

40代おばの恩返しは、より切実です。「仕事や育児で辛いとき、推しに救われた」という内容の回答が多く寄せられました(図8)。

【図8】

40代は、一言で表すならば、「”救済”に対する恩返し」といえそうです。仕事、育児、介護など、いくつもの役割を同時に抱えながら、必死に日々を生き抜いている年代です。そんななかで、推しの歌や姿、言葉に救われた。だから恩返しとして、CDやグッズを買う、ライブに参戦する、再生回数を増やす。そうやって少しでも売り上げや推しの成長に貢献したいという思いがあるようです。

一方、50代では推し活は健康や美容、社交性にダイレクトに良い影響を与えてくれているようです(図9)。

【図9】

50代は子育てが一段落する人が多い一方、心身の変化や人生の後半戦を意識し始める時期でもあります。そのなかで推しは、新しい場所へ自分を連れ出してくれる存在になっているのです。

40代は「私を救ってくれたことへの恩返し」、50代は「私の人生を彩り、広げてくれたことへの恩返し」。この違いを捉えることが、おば世代の推し活を理解する上で重要です。

そして、この「恩返し」という純粋なエネルギーこそが、強いロイヤルティーを生み出しているのかもしれません。量より質を重んじ、ここぞという時に大きな消費を生み出すのです。

 

→続きは「日経クロストレンド」のページからご覧ください。

 

<日経クロストレンド「30年のデータで解析! 生活者の変化潮流」>
◇過去の連載はこちら↓
第70回ーー“他人の喧嘩”で感情不足を補給 「感情ミュート社会」が生む3つの新欲求
第71回ーー人の「幸せ」を写真でのぞき見<br>家族ありでも“ひとり”の隙間探す
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