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2026.10.06

–日経クロストレンド(76)連載–

「鏡離れ」は何歳から? 生活元年で見えた消齢化と世代間ギャップ

生活総研 上席研究員

高橋 真

「日経クロストレンド」の連載記事です。

コンビニで生鮮食品を買う頻度が高くなるのは何歳から? 他人からの目線が気にならなくなり外見を重視しなくなるのは何歳から? 博報堂生活総合研究所は生活において行動を始めるタイミングを「生活元年」と名づけて調査・研究を続けている。詳細に見ていくと、年齢による意識や行動の差が減少しつつある「消齢化」時代にもかかわらず、生活元年では年代によって大きな意識の差がある項目も目立った。その差、ズレから見える生活者の意識と心理を読み解いた。

いろいろな行動をし始める「生活元年」から見えてきた、
消齢化と今なお残る性差・年代差の意識とは。上図は“生活元年年表”

生活者のさまざまな行動には、始まりと終わりがあります。博報堂生活総合研究所(以下、生活総研)では、2014年から、生活行動が終わるタイミングを「生活寿命」、始まりのタイミングを「生活元年」と名づけて調査・研究を続けてきました。

例えば、他人に対して恋愛感情を持てなくなる【恋愛寿命】は、14年の60歳6カ月から19年は59歳7カ月、24年は55歳9カ月と着実に短くなっています。一方、アニメ、アイドル、鉄道などに熱中し続けられなくなる【熱中寿命】は、14年の44歳2カ月、19年の44歳1カ月から24年には48歳0カ月と長くなりました。

縮む【恋愛寿命】と伸びる【熱中寿命】

この2つだけを見ても、かつて年齢と結びついていた生活行動の「終わり方」が、いま大きく変わりつつあることがうかがえます。

ただし、生活寿命が示しているのは、単に「人はいくつまでその行動を続けると思っているか」という数字だけではありません。その背後には、「恋愛は若い人のものなのか」「熱中は何歳まで許されるのか」といった、生活者の無意識の線引きがあります。つまり生活寿命とは、生活者の頭の中にある「行動と年齢の結びつき」を映すデータでもあります。

では、同じように生活者は、ある行動の「始まり」を何歳ごろに置いているのでしょうか。

恋愛や熱中の終わり方が変わっているなら、その裏側で、何かの始まり方もまた変わっているはずです。そこで26年に調査した「生活元年」では、生活者がさまざまな行動を何歳ごろから始めると考えているのかに注目しました。

生活者が思い描く「人生時計」

これらのデータは、実際の行動実態ではなく、各世代の男女が考える「人は何歳でその行動を始める(終える)のか」という、いわば頭の中の「人生時計」の平均値(意識データ)です。マーケティングにおいて、なぜこうした意識のデータが重要になるのでしょうか。それは、これらは生活者が抱く「年齢に対する固定観念や社会の常識」そのものだからです。

かつてのマーケティングは、年齢や性別といったデモグラフィック情報をベースにすれば、生活者の常識や行動をある程度ひとくくりに予測できました。しかし現代は、年齢による意識や行動の差が減少しつつある「消齢化」の時代です。もはやデモグラフィック情報のような外側の記号だけでは、生活者のリアルな心理を捉えきれなくなっています。

 

では、実態としての年齢差が消えつつある今、私たちの頭の中にある「年齢の常識(固定観念)」のほうは、どのように変化しているのでしょうか。

今回は、全66項目の「生活元年」データから、現代の生活者の頭の中にある「男女差」と「年代差」を読み解いていきます。実年齢の枠を飛び越えて、彼らの人生時計が今どう刻まれているのか、その心のうちをのぞいてみましょう。

生活元年の男女差はわずか「2歳1カ月」

この調査では、自分ではしない生活行動についても、想像して「何歳くらいか」を回答してもらっています。そこには、その行動がどれくらい身近なのか、もしくは縁遠いのかという影響もあるはずです。

まずは、「生活元年」全項目から男女の意識差を見てみましょう。最も差が大きいのは、自分のことを「私」と呼ぶようになる【「私」元年】で、男性が41歳0カ月に対して女性は21歳10カ月。19歳2カ月もの差が開きました。女性は自分を「私」と呼ぶのが一般的なのに対して、若い男性は「僕」や「オレ」という一人称からだんだんと「私」を使うようになるからでしょう。

他にも男女差が目立つ項目としては、日焼けを避けて、美白を意識し始める【美白元年】もあげられます。全体平均は30歳1カ月、男性は34歳2カ月で女性は26歳1カ月(男女差:8歳1カ月)でした。

また、メイクをするようになる【メイク元年】も男女差が大きく、全体平均は22歳2カ月、男性は26歳3カ月で女性は18歳4カ月(男女差:7歳11カ月)でした。メンズメイクや日傘男子といったトレンドはあるものの、多くの男性にとって美容領域の生活行動は想像しづらいからかもしれません。

ここから見えてくるのは、性差が一律に消えているわけではない、ということです。一人称や美容のように、身体性や社会的なジェンダー規範と結びつきやすい行動では、いまなお男女の「人生時計」にズレが残っています。つまり、生活元年における性差は、全面的に消滅しているというより、特定の領域に濃く残っていると見るべきでしょう。

一方で、全体平均を見ると、生活元年全体の男女差は2歳1カ月にとどまりました。男女差が最も小さいのは、一生の行きつけになるようなお店に出会い始める【行きつけ元年】で、男女とも46歳3カ月でした。店との関係や生活習慣のように、性別役割と直接結びつきにくい行動では、男女の人生時計はほとんど重なっているようです。

また、メイク元年も20代における男女差は4歳6カ月、美白元年も20代の男女差は5歳8カ月と、全体より短縮しています。性差は消えたというより、残る領域が限定され、しかも若い世代ほどその境界線が薄くなっている。生活元年のデータからは、そんな「性差の縮小のあり方」が見えてきます。

「美白元年」「メイク元年」の男女差。性差による差は一部残りつつも縮小傾向に

年代によって大きくズレる「人生時計」

ところが、こうした男女の意識差と異なる様相を見せたのが年代差、年齢による意識の違いです。男女差は男性・女性の2グループ間の比較、年代差は20代から60代までの5グループ間の比較であり、後者のほうが差は大きく出やすい点には注意が必要です。

それでも、各項目について年代別回答の最大値と最小値の差を「年代差」として見ると、その平均は11歳1カ月。男女差の平均2歳1カ月と比べても、生活元年における年代のズレはかなり大きいことが分かります。

年代差が最も大きかったのは、野菜や肉など、生鮮食品をコンビニで買う頻度が増える【コンビニ生鮮食品元年】です。

全体平均は41歳10カ月ですが、20代の30歳3カ月に対して60代は52歳5カ月。22歳2カ月ものズレが見られます。今や多くのコンビニが生鮮食品を扱い、単身世帯や忙しい生活者にとっては、近くてすぐ買える選択肢になっています。若い世代にとってコンビニで肉や野菜を買うことは、かなり身近な行動なのでしょう。

しかし、「生鮮食品はスーパーや商店街などで買うもの」という意識が一般的な中で生きてきた中高年からすると、そうした食品をコンビニで買うようになるのは「年を取って遠くのスーパーまで移動するのが面倒になってから」という意識があるのかもしれません。また、長い人生においてコンビニで当たり前のように生鮮食品を買えるようになったのがここ最近だから、という体験が影響している可能性もあります。

体にぴったりフィットし過ぎない、ゆるゆるのパンツやスカートをはきたくなる【ゆるゆる元年】も年代差が目立ちました。

全体平均は44歳9カ月ですが、20代の回答は34歳1カ月。ところが60代は54歳6カ月と、20歳5カ月もズレがあります。「新人類」や「バブル世代」と呼ばれ続けてきた今の60代は、ファッション誌とともに育ってきた世代です。彼ら・彼女らにとって「ゆるゆるの服」は、人生の後半戦に入ってファッションの勝負を「降りた感覚」なのかもしれません。

一方でタイパ(タイムパフォーマンス)やコスパ(コストパフォーマンス)など効率を重視する20代にとって楽な服は、今すぐでなくても「近い将来には着ていいかも」と感じられるのでしょう。さらに、若い世代のファッションは多様化しており、「ルーズスタイルが好きな人は若くてもゆるゆるを着ていいじゃないか」と考える人も少なくないとも考えられます。

年代差は目立つ「コンビニ生鮮食品元年」「ゆるゆる元年」

平均値でも11歳を超え、ときに20歳を上回る生活元年の年代差は、先に触れた「消齢化」と相反しているように思われるかもしれません。実態としては、若い人とシニアの行動や意識の差はかつてより小さくなっている。にもかかわらず、「その行動は何歳くらいから始まるものか」と尋ねると、世代によって大きなズレが現れるからです。

しかし、これは消齢化の否定ではありません。むしろ、実態としての年齢差が狭まっている一方で、私たちの頭の中には「これは若い人のもの」「年を取ってからのもの」というラベルが残り続けている、ということではないでしょうか。つまり生活元年の年代差は、実態の差というより、年齢に対する先入観・固定観念がアップデートされるまでの「認識のタイムラグ」とも考えられます。

消齢化とは、すべての世代が同じになることではありません。むしろ、実態がフラットになればなるほど、生活者やマーケターの頭の中に残る年齢イメージのズレが、商品やサービスの見立てを誤らせる可能性があります。生活元年の年代差は、そうした見えにくい落とし穴を映し出しているのです。

 

→続きは「日経クロストレンド」のページからご覧ください。

 

<日経クロストレンド「30年のデータで解析! 生活者の変化潮流」>
◇過去の連載はこちら↓
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