生活者インタビュー Interview

ふ〜どさん

プロ格闘ゲーマー

30代男性。日本のプロ格闘ゲーマー。ジャパン・eスポーツ・プロライセンス保持者。
2005年闘劇'05『バーチャファイター4 ファイナルチューンド』初優勝。2011年初出場した世界最大の格闘ゲーム大会EVOLUTION (通称EVO)で優勝し鮮烈な世界デビューを果たし、2012年プロデビュー。驚異的な実力で数々のタイトルを制し世界で力を発揮。ゲーム実況動画の配信や女性や若手の指導なども行っている。名前の由来は、ゲームセンターで常にフードを被ってプレイしていたことからついたもの。

オンラインゲームは
「実力=信頼」の世界

ゲームの世界では「実力=信頼」と言えるのかもしれません。
僕が本職でやっているのは格闘ゲームですが、それ以外にもMOBAと呼ばれるタイプのゲーム(オンラインで、複数人のチームを組んでミッションを行うゲーム)もやります。
知人同士でチームを組むこともあれば、実力などを基にして自動的に割り振られた、見ず知らずの相手とチームを組むこともあります。見知らぬ相手とは、ゲーム中に会話をして関係を深めたりすることはあまりないです。そんなことをしなくても、ゲーム内のお互いのキャラクターの動きを見ながら、それに連携するようなプレイをすれば、自然とチームワークをつくることができます。ゲーム内の行動や実力が、お互いの信頼につながっているということですね。

対等な関係は
オンラインゲームならではの良さ

鉄道ファンの世界に「乗り鉄」や「撮り鉄」のように細分化された楽しみ方があるように、オンラインゲームの世界でも、楽しみ方は人それぞれ。ひたすら強さを求めてチート(反則・不正行為)に走る人もいれば、わざとチームの足を引っ張るようなプレイをする人もいる。そういう「楽しみ方」の多様性も、お互いのことを詳しく知らない「匿名性」があるからできることです。ゲームの交流がきっかけでオフ会が開かれるなど、互いの属性を超えたつながりも生まれるし、逆に「この人は自分とは合わないな」と思えば、シャットダウンすれば済むというよさもある。

そういう意味で、オンラインゲーム空間の特徴は「対等さ」だと思います。
性別や年齢の差とか、現実の上下関係とかを気にすることなく、ゲームを通じて交わりあっている。僕がやっているゲーム実況は小学生のファンたちも見てくれていますが、プレイに対して普通に辛口の批評をされることもあります(笑)。
「目上だから面白い」とか「10代だから大したことない」とか「女性だからこうだ」とか、そういう属性を見ないで、ちゃんと発言や行動の中身とかで、相手を評価する時代なのかもしれないですね。オンラインでの交流が増えたことで、今は結構、本質をみる時代になったのかもしれないですね。

ゲーム好きだけの共同生活
「聞かない」ことがポイントだった

だいぶ前のことになりますが、都内のマンションで、ゲーム好き同士で集まって共同生活をしていたことがあります。「人間学園」という名前で呼ばれていました。ゲーム雑誌の編集長が部屋を提供してくれて、男ばかり10人くらいで、ひたすらゲームに没頭する生活を送っていたんです。

何年間にもわたって共同生活をしましたが、お互い名前も年齢もこれまでの経歴もよく知らないまま。こちらからも何も聞かないし、相手からも何も聞かれない。でもむしろ「聞かない」ことが、こんな生活が長続きしたポイントだった。みんなゲームが一番で、人間は二の次(笑)。
ゲームが好きということと、「今日、この時を楽しみたい」という共通する思いがあったことが大事で。だからそれ以外の余計な情報はいらなかった。この先の将来のことを語り合ったりすることもないし、誰かに何かを命令されることもない。お互いに深く知らないまま、ひたすら楽しいことだけをやる、「いいとこどり」の心地よい関係だったと思います。
それは、匿名性があることで成り立っている、今のオンラインの人間関係にも似ている部分だったかもしれませんね。

ハワイの結婚式に来てくれたゲーム仲間
でも大半は「本名よく知らない」

自分の情報をさらけ出して人間関係を築くか、さらけ出さないまま人間関係を築くか。どちらかを選べと言われたら、自分は後者の方が好みだと思います。
上述の共同生活も、互いに深くは知らないことで成り立っていたわけです。
結婚式をハワイで挙げたんですが、そこにゲーム仲間たちが30人くらい来てくれたんです。それくらいの間柄なのに、本名も住んでいるところも知らない人が半分くらいいましたから(笑)。

こういう付き合い方をしてきましたから、反対に深い関係を築こうとして、情報をさらけ出すとすると、本来の自分を失うような気がします。「自分もさらけ出したんだから、あなたもさらけ出しなさい」ということになっても息苦しいし。不器用な人は損をするかもしれないし、嘘をつく人がいると、結局はその人のことを知らないのと同じでしょう。だったら、お互いプレッシャーなく、言いたくないことは言わない、深いことは聞かない、でいいんじゃないでしょうか。

すごく仲の良い友人に、「自分たちは、一生軽薄な関係でいよう」と伝えたら、「とても感銘を受けた」と言われたことがありました。オンラインゲームの空間にも通じることですが、必要な情報だけを見せる、良い意味で「うわべだけ」、「いいとこどり」くらいの方が、お互い対等で良好な関係が築けるのではないでしょうか。

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