私の生活定点

博報堂生活総研による定点調査「生活定点」を見て気づいたこと、
発見したことをさまざまな人が語っていくリレー・エッセイです。

2022.05.18

無料で使える
ビッグデータ分析ツール3選
–日経クロストレンド 連載㉖–

生活総研 上席研究員

酒井 崇匡

こちらは「日経クロストレンド」からの転載記事です。

消費者の行動や欲求を、ビッグデータから読み解こうとする動きが広がっている。そんな中、最近では特別なスキルがなくても、ビッグデータ分析にアクセスし、マーケティングに生かせるツールも出てきている。博報堂生活総合研究所の研究員たちが、データから消費者の行動変容の芽を探る本連載。今回は番外編として、ビッグデータを活用した生活者研究を推進する酒井崇匡氏が、誰でも無料で使える分析ツールと、その使い方のコツを解説する。

 

今回は、博報堂生活総合研究所の酒井崇匡氏が、マーケティングや消費者のインサイトの発見に生かせるビッグデータ分析ツールを紹介する

 

私は博報堂生活総合研究所で、ビッグデータを使った生活者の見えざる欲求の可視化を、デジノグラフィ(Digital Ethnography)と称して研究しています。近年、誰もが特別なスキルがなくてもビッグデータ分析にアクセスできる、民主化されたツール群が多く世の中に出回るようになってきました。

これは非常に重要なことです。なぜなら、見えざる欲求を発見するためにどんなデータに着眼するか、分析結果をどう解釈するか、そこからどんな新しい提案を発想するか、全てのプロセスで重要な役割を果たすのは、結局ビジネスの現場で生活者に寄り添っている人々だからです。

データサイエンティストなどの専門家の分析・解析スキルはもちろん非常に重要ですが、それだけでは圧倒的に視点と発想の量が足りません。多くの人に、自由に使える武器が配られるべきですし、実際のところ、ビッグデータ分析のための有償、無償の様々な武器がオープンに利用可能になりつつあるのです。

そこで今回は、読者の皆さんが今すぐ使えるビッグデータ分析の武器を、3つご紹介したいと思います。

武器その1 Googleトレンド(検索データ)

武器その1は超メジャーな検索データ分析ツール、「Googleトレンド」です。

今さらかい! という声が聞こえてきそうですが、実はGoogleトレンド、直近の検索データだけでなく、2004年から18年間にわたる検索ボリュームの変化を分析することができる、ビッグデータ界でも珍しいロングデータとしての性格を持ったツールなのです。

例として、21年にユーキャン新語・流行語大賞にノミネートされたSDGs(持続可能な開発目標)、Z世代、NFT(非代替性トークン)という3つの言葉について、Googleトレンドで日本国内・過去5年間の検索量推移を波形で見てみるとこうなります。ブレークするまでの曲線は言葉ごとにだいぶ趣が異なっていますね。

3つのキーワードについてGoogleトレンド(https://trends.google.co.jp/trends/)で検索した結果

 

青で示した「SDGs」は、他の2語に比べて検索ボリューム自体が圧倒的に多いですね。数年前から徐々に増加してきており、一気に流行語になったというよりも下積みが長かったことが分かります。15年に国連で採択されて以降、日本では苦節5年、関係各位の地道な広報努力の結果、ブレークしたということでしょう。

一方で、赤で示した「Z世代」は、21年に入ってから急に検索量が増えました。特に3月と12月上旬に山があり、関連書籍の発売や流行語大賞ノミネートなどニュースがあったときに注目が高まるタイプの言葉だと分かります。ちなみにGoogleトレンドの分析対象国を「アメリカ合衆国」に変更し、「Generation Z」で波形を見ると既に16年には検索量の増加が見られます。本家から5年後に日本に本格的に輸入された言葉であることも分かるのです。

さらに黄色で示した「NFT」について見ると、こちらも21年になってから一気にブレークして尻上がりに検索量が伸びています。本格的な浸透はここから、という感がありますね。この波形は米国でもほぼ同様で、世界同時にムーブメントが起きていることが分かります。

簡単に検索対象とする国や期間を変更できる

 

皆さんがお仕事されている業界でも、今トレンドになりつつある言葉、トレンドが去ろうとしている言葉、きっとありますよね? 様々なトレンドワードの時系列波形を分析していくと、業界ごとにトレンドのサイクルが、言い換えれば生活者の欲求のサイクルが見えてくるはずです。

どんな言葉を分析するか、視点は他にも色々あります。例えば、略語と正式名称の比較。コロナ禍の本格化と同じタイミングで、「サブスク」が「サブスクリプション」の検索ボリュームを上回りました。

12年には、「スマホ」が「スマートフォン」を逆転しています。略語での検索が正式名称のそれを上回るのは、プロダクトやサービスの普及を象徴する出来事ですよね。

また、私たちは“第2キーワード”と呼んでいますが、「○○ 使い方」「○○ 意味」などのように様々な言葉の後について検索される言葉に着目することもできます。

例えば、「レシピ」という言葉を入力した場合、分析結果の画面右下に表示される「関連キーワード」を見ると、その時々に生活者が作りたいメニューや使いたい食材のTOP25を、「注目」(増加率)と「人気」(ボリューム)という2つのランキングで確認することができます。3月は春らしく、「つくし レシピ」や「ひな祭り レシピ」などが注目ランキングの上位となっています。ぜひ皆さんも気になるワードを打ち込んでみてください。

武器その2 V-RESAS(人流・消費データ)

武器の2つ目は、全国各地の人流や消費ビッグデータを入手できる「V-RESAS」です。内閣官房が運営しており、携帯キャリア各社やカード会社など主に民間企業が保有している幅広いビッグデータを無料公開しているデータ可視化サイトです。帰省したり、旅行したりする前にその場所の人出がどんなふうに変化しているかを把握できる、ゴールデンウイーク前にもうってつけのデータ分析ツールといえるでしょう。

非常にデータ更新のスピードが速く、かなり最新に近いビッグデータを入手できるのが特徴。一例として私の地元、千葉市がこの1年間、どんな状況だったのかを見てみましょう。

まず、サイト上部のプルダウンから都道府県を選択するとその都道府県のサマリーデータが表示され、さらにその下には人流、消費、飲食など様々なカテゴリの詳細データが表示されます。

V-RESAShttps://v-resas.go.jp/は都道府県を指定することで、多様なデータが一覧表示される

 

そして、詳細データではさらに細かいエリアごとのデータを見ることができます。例えば、人流という項目の中の「滞在人口の動向」では、千葉県全体だけでなく主要駅周辺にフォーカスしてデータを見ることもできるんです(必要に応じて時間帯も指定できます)。

都道府県ごとだけでなく、より細分化したエリアのデータも取得が可能

 

千葉市の中心、千葉駅周辺の滞在人口をコロナ禍前の19年と比べた推移がこちらです。これを見てみると、黄色と赤色の線で示した市外、県外からの人出はまだ、19年水準に戻っていません。一方で青色の線で示した千葉市内からの人出は、21年10月の緊急事態宣言解除後などむしろコロナ禍以前と比べて10%ほど増えていることが分かります。この傾向は津田沼駅や船橋駅、柏駅など県内各市の中心となる駅でも同様です。

千葉駅周辺の滞在人口の推移(コロナ禍前の19年比)。青線が千葉市内からの人出、黄線が市外からの人出、赤線が県外からの人出を示す

 

さらに、県をまたいだ移動のデータも見てみましょう(下図)。「千葉」エリアに住んでいる人は県外への移動がまだ平時の8割程度に抑えられています。前述した千葉駅周辺の滞在人口の推移を合わせて考えると、東京などに出かけるのを控えた人の一部が代わりに地元の中心地である千葉駅周辺に流れているんだろうな、ということが想像できます。

当該エリア(千葉エリア)に滞在している人口がどの都道府県から来たのか、また当該エリアに居住している人口がどの都道府県に行ったかを、19年の週平均の都道府県をまたいだ移動人口との比率(指数)で表示したもの

 

次に、クレジットカード決済データを見てみると、ずっと低迷していた外食が21年10月後半には19年比で±0水準に一時回復しています。ただ、その後は新型コロナの変異型「オミクロン型」の感染拡大とまん延防止等重点措置の影響もあって、22年1月後半には19年比-21%まで落ち込んでいます。

クレジットカード決済情報を基に、消費の変化を19年同期比で表したもの

 

こうして波形を見ていくと、今後の予測もある程度可能です。新型コロナウィルスの感染拡大が落ち着き、21年10月に近い状態になれば、ゴールデンウイーク中の千葉県のお店はコロナ禍以前と同じくらいには混みそうです。このグラフでは他にも、「コンテンツ配信」の出費が堅調に増加していたりするなど、色々と気づきがあると思います。

もちろん皆さんが今お住まいの地域を見てみるのもよいと思いますし、帰省や旅行の前に行き先のデータを確認してみる、住んでいる地域と比較してみる、というのも面白いんじゃないでしょうか。

地域情報を収集しているものとしては、V-RESASの他に「RESAS」という官民のマクロデータ可視化サイトもあります。こちらもかなり面白いサイトです。データの更新がV-RESASほど早くないのですが、消費や観光、企業業績に至るまで、相当幅広いデータが見られます。人口の増減や地域間の流動なども追うことができ、例えば長野県軽井沢町に東京の港区、世田谷区から移住する人がコロナ禍以降に急増している、といったことも見られます(おそらく21年のデータもそろそろ反映されるはずです)。

武器その3 AIテキストマイニング (生声データ)

最後にご紹介するのは、ユーザーローカルが提供している、ブラウザー上で手軽にテキストマイニングが可能なツール「AIテキストマイニング by ユーザーローカル」です。テキストマイニングというのは、大量のテキストデータから、有益な情報を抽出するためのもの。アンケートで選択肢形式でなく文章で回答してもらったものや、ネット上にある商品のクチコミなど、何らかのテキストに含まれる言葉の傾向を分析するのに有用です。

ご紹介するAIテキストマイニングは、1万文字(ユーザー登録すると20万文字)分の文章を無料で分析することができます。さらに、2つの文章を比較分析する機能も利用できます。この機能があると、例えばアンケートの同じ質問への回答に男女でどのような差があるかや、類似した2つの商品のクチコミにどのような差があるのか、といった分析が可能になります(Googleトレンド、V-RESASと違い、分析対象となる文章は自分で用意する必要があります)。

例として、今回は弊所が毎月実施している「来月の消費予報」という調査を取り上げます。この調査は、来月の消費意欲(モノを買いたい、サービスを利用したいという欲求)を100点満点で回答し、その理由を記入してもらう、というものです。

22年3月の調査結果、つまり22年4月の消費意欲は男女で結果が分かれました。女性が前月から大きく上昇し、過去5年間で見ても最高値となったのに対して、男性は前月、前年同月と比べてやや減少したのです。文章で回答されている点数の理由を、男性の回答と女性の回答に分けて比較分析してみたのが下記の図です。

博報堂生活総合研究所の「来月の消費予報」という調査データを、「AIテキストマイニング by ユーザーローカル」(https://textmining.userlocal.jp/)に読み込ませた分析結果

 

図中には、回答に頻出する言葉が配置されています。左にあるものほど男性の回答に多く、右にあるほど女性の回答に多く登場する言葉です。ちなみに青が名詞、赤が動詞、緑が形容詞となっています。

緑の形容詞から見ていくと、「悪い」「忙しい」「無い」などネガティブな形容詞が男性寄りに、「明るい」「楽しい」「新しい」などポジティブな形容詞が女性寄りに配置されているのがひと目で分かります。両者の雰囲気の違いが浮かび上がってくるようです。

さらに青の名詞や赤の動詞の配置を見ると、どちらも比較的、女性寄りに配置されている言葉が多いのが分かります。名詞では「春」「4月」「買い物」、動詞では「出かける」「行く」「使う」などの言葉が特に女性寄りですね。女性のほうが情緒面も含めて活動的になっており、春に関連付けて買い物欲が増大しているであろうことが、この図を見ることで大まかに把握できるのです。

AIテキストマイニングでは、他にも様々な形式で分析結果を見られます。例えば、下記は先程の図より出現回数の少ない言葉も含め、男女での出現の偏りをグルーピングしたものです。これを見ると、男性寄りに出現する言葉は抽象的な形容詞が多いのに対して、女性寄りに出現する言葉は名詞や動詞が多く、何にどのような意欲を持っているか、より具体的であることが分かります。

同様に「AIテキストマイニング by ユーザーローカル」で分析した結果

 

この調査の回答数は合計1500件なので、そのくらいのボリュームなら全ての回答を人の目でチェックすることも可能です。ただ、もしこれが合計1万件のクチコミデータだったとしたら、人力での分析はかなり労力のかかるものになるでしょう。

また、システムにデータを放り込めば一瞬で分析結果が出てくるので、たとえ数百件しかデータがない場合でも時間のないときや、人力での分析の前にざっくり傾向を把握したいときなどには非常に役に立ちます。このようなツールを活用することで、従来の定量調査の分析も効率化することができるのです(ただし、あくまでもオープンツールですので、機密性の高い文章を分析するのは控えたほうがよいでしょう)。

いかがでしたでしょうか。今日ご紹介したこれらのツールは、従来可視化されてこなかったデータを分析するためのとても有用な武器です。また、どれも非常に手軽で従来の生活者への調査手法に比べて手間がかかりません。これらのツールの活用は、消費の傾向をつかめるだけでなく、マーケターの働き方改革にもつながるのではないでしょうか。

どのツールも、まずは触ってみることが大事です。3つの武器のうち気になるものを選んで、今すぐ使ってみていただければ幸いです。一緒に、楽しみながら生活者の見えざる欲求、見えざる胎動を可視化していきましょう。

 

<日経クロストレンド「30年のデータで解析! 生活者の変化潮流」>
第1回ーー 「43歳からおじさん」が調査で判明! 「7つの特徴」を大分析
第2回ーー 足りないのはお金より時間 40代おじさんの幸せは“時産”にあり
第3回ーー たこ焼きが1位? 和食が消えた? 好きな料理ランキング大激変
第4回ーー シュフからシェフに! オンラインで「我が家の食卓」が変わる
第5回ーー 40代おじさん必読! J.Y. パーク氏に学ぶ 「褒めワード」ベスト5
第6回ーー 世代間ギャップを学べる魔法の質問 「お金持ちって誰ですか?」
第7回ーー 「お金持ちへの憧れ」は徐々に減る?若者はなりたい自分を投影
第8回ーー 40代おじさんに黄信号 「男女平等感」が世の中とズレている!?
第9回ーー 40代おじさんの意識を精神科医が分析 悲しい性をメッタ斬り!?
第10回ーー40代おじさんの生き様は「30点」? 精神科医による処方箋
第11回ーー40代おじさんはキス派?ラブレター派? 二択から見える意識
第12回ーーZ世代とシニア、上司と部下の板挟みで、40代おじさんは右往左往?
第13回ーー「40代おじさん」の妻は幸せか?夫婦間ギャップに見る危機
第14回ーーロンブー田村淳が思う「かっこいい40代おじさん」とその理由
第15回ーー40代おじさん・ロンブー淳 人生満点じゃない理由は日光東照宮?
第16回ーー奥田民生は「おじさん」をユニコーンの武器にした
第17回ーー40代おじさんに共感? 奥田民生も自信がなくてビビり!?
第18回ーー幸福度は最下位 50代男性を襲う「定年前の3つのブルー」
第19回ーー40代おじさんの人生は最低の50点台 救いの言葉を住職に求めた
第20回ーー犬派と猫派を49項目で徹底分析!性格、価値観、消費行動に大差
第21回ーー子ども思いの「40代おじさん」に送る“ドミニカ流”子育て法
第22回ーーグラドルに聞く&調査に見るおじさんの“発言”が嫌われるワケ
第23回ーー40代おじさんでもすぐ書ける“モテリプ”の三原則とは?
第24回ーー愛される「40代おじさん」の分岐点 弘中綾香アナに学ぶ
第25回ーー「料理好き」減少! どこからが手料理? 調査で分かった新定義

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