20代は「タイパよく」 60代は「頼らない」 「感情ミュート社会」における私たちの密かな願望

生活総研 上席研究員

松井 博代

(写真:アフロ)

研究員の松井が気になるテーマについて執筆します。
職場でのハラスメントリスクへの配慮や、SNSでの炎上、情報過多な日常……。そんななか、あえて感情を表に出さずにミュートする生き方を選ぶ人が半数を超える現代を、私が所属する博報堂生活総合研究所では「感情ミュート社会」と名づけました。

今回は、そんな現代の空気感を映し出す興味深い調査データをもとに、現代人が心の奥底に抱える「イマドキ願望」を紐解いていきます。社会を生き抜こうとする私たちのリアルな姿と、年代ごとに異なる価値観がみえてきました。

「減点されたくない」という強い防衛本能

昨年、20~60代の男女3,914人に実施した「感情に関する意識調査」で全体の傾向をみると、現代人のマインドが非常によくわかります。「願望がある」「やや願望がある」の合計をランキングにすると、以下の通りです。

博報堂生活総合研究所「感情に関する意識調査(第3回)

ここで注目すべきは、自己実現や成功といったプラスを求める前向きな願望よりも、「マイナスを避けたい」「減点されたくない」という防衛的な心理が上位を独占している点です。多様性が広がり、「普通」や「正解」がみえづらい不確実な時代において、エラーを排除しようとする傾向が読み取れます。

特に興味深いのが、3位の「感情を平らにしたい願望」です。これは、怒りや悲しみといったネガティブな感情を抑え込むだけでなく、喜びの天井も低く設定しておくことで、落胆したり傷ついたりするリスクを最小限に抑えようとする、現代人特有の「感情ミュート」の傾向を色濃く映しているといえるでしょう。

40代以下の「タイパ」と50~60代の「自立心」

さらに、年代別のランキングを深掘りすると、年代間のギャップから「何を大事にしているか」の違いが浮き彫りになります。

博報堂生活総合研究所「感情に関する意識調査(第3回)

20代〜40代で共通して目立つのが、効率を重視する「タイパ(タイムパフォーマンス)よくしたい願望」です。20代では3位(73.9%)、30代で4位(73.3%)、40代で5位(73.8%)にランクインしています。仕事やプライベートに追われるなか、コンテンツ消費から人間関係に至るまで「時間や労力を無駄にしたくない」という意識が、「失敗したくない」というトップの願望と密接にリンクしていることが読み取れそうです。

一方、50~60代になると景色が大きく変わります。40代以下で高かった「タイパ」の代わりに「頼りたくない願望」が50代の5位(70.2%)、60代の4位(71.8%)に浮上してきます。

さらに60代では、全年代で唯一「正しい人でいたい願望」(76.4%)が「失敗したくない願望」(75.3%)を逆転して1位となりました。定年やその後の老後を見据え、他者や社会に迷惑をかけずに自立していたいという、60代ならではの「ありたい姿」が表れている結果ではないでしょうか。

願望からみえてくるアプローチの違いと共通の想い

これらの願望を俯瞰すると、複雑化し、少しのミスや逸脱がすぐに可視化・共有されてしまう社会において、自分と自分の大切なものを守るための賢い「処世術」である側面がみえてきます。

若者は「時間」を無駄にしないことでリスクを回避し、50~60代の上の年代は「他者に依存しない」ことで社会との摩擦を避けようとしています。アプローチは違えど、「心地よい日常を送りたい」という共通の想いが根底にはあると考えられます。

今回みえてきたように、年齢別の異なる願望や文脈を踏まえた「静かな安心」を求める生活者を理解して細やかに寄り添うこと。それは、感情がミュートされがちな現代だからこそ、これからの社会や企業にとって重要な鍵となるかもしれません。

【関連記事】
「感情ミュート社会」とは? 自ら感情を出さない新常識

【調査概要】
■感情に関する意識調査(第3回)
調査対象 20~69歳の男女3,914名
調査方法 インターネット調査(全国)
調査時期 2025年10月

【願望の選択肢文詳細】
失敗したくない願望:失敗せず正解にたどり着きたい、場にそぐわない言動をしたくない
正しい人でいたい願望:善悪を正しく判断でき、みんなから受け入れられる人でいたい感情を平らにしたい願望:感情を波立たせず、できるだけ平穏に過ごしたい
自分らしくいたい願望:人と違う自分でありたい、個性を発揮したい
タイパよくしたい願望:何事も効率的に済ませたい、無駄をなくしたい
頼りたくない願望:困ったことがあっても、他人に迷惑をかけず自分で解決したい
内輪でいたい願望:仲間や気が合う人以外の余計なかかわりを避けたい
成長したい願望:いつでも前より良い自分になりたい、自分の糧になるものを得たい
平均でいたい願望:優秀なのも劣っているのも嫌。目立たない平均的なところにいたい
努力したくない願望:一生懸命頑張らなくても、自分のレベルでできることだけやりたい
承認されたい願望:人から認められる自分でありたい
チートしたい願望:楽して成功したい、自分に圧倒的有利な状況や分野で活躍したい
遅れたくない願望:時代に取り残されないよう、常に情報をアップデートしたい

【Yahoo!ニュース エキスパートより転載】
https://news.yahoo.co.jp/users/expert/hiroyomatsui

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